ある日突然、あなたに12人ものシェゾが出来たらどうしますか?
それも……とびっきり強くて
とびっきり素直で
とびっきり愛らしくて
とびっきりの淋しがりや。
しかも、そのうえ……
シェゾ達はみんなみんな、とびっきり!
──のコトが大好きなんです……
「─はっ!!」
ベッドに横になっていたラグナスは、脂汗をぐっしょりかきながら飛び起きた。
「…ゆ、夢か…。なんて恐ろしい」
窓の外の平穏な朝日が目にまぶしい。
ラグナスは今自分を襲っていた悪夢から逃げ出せた事に感謝しながら額の汗を拭った。
非番の日でゆっくり朝寝坊をしようと思った矢先の出来事だったので、これは凹まざるを得ない。
朝から安堵と憂鬱な溜息をついてベッドから降りた。
とんでもない夢だった。
まるでクローンかコピーペーストされたかのように増殖した『あの男』が、一斉に自分へと群がってくるのだ。
正直、あのまま目覚めなければ死んでいたかもしれない。
「笑えないよな…」
顔を洗いさっぱりと目が覚め、汗の染みた服を着替えて誰もいない小さなリビングへ向かう。
「12人ものシェゾ、なんてさ」
「俺がどうしたって?」
あはは、と一人笑いつつリビングに足を踏み入れた瞬間そんな声がした。
すると、ラグナスは驚いたように身体をビクつかせるとそのまま後ろに転がってしりもちをつく。
素のリアクションであった。
「な、な…」
ぶるぶると震えるラグナスが指を指したのは、素朴な木のテーブルの上に悪気もなく腰掛けた闇の魔導師の姿。
シェゾは、尻餅をついたまま自分を指差して口をぱくぱくさせている男に口の端をにやつかせた。
「なな、な…」
「『なんでお前がここにいるんだ?』
そりゃあお前、玄関から入ってきたからだろ」
「ち、ちち、ちが……ど、…っ」
「『違う。どうして俺の家に来たんだ』…か?
……まあ別にいいじゃねえか」
まともに喋れないラグナスの言葉を正確に解読しながら、シェゾはよ、という声とともに机から降りると、ラグナスの腕を引いて立ち上がらせた。
「だらしねーな。驚いたくらいで腰ぬかしてんじゃねーよ」
「ち、違う!…夢見が悪かったうえにその原因がいきなり家に現れたから」
「酷い言い草だな。」
「何を騒いでるんだ?」
ひょい、とキッチンからリビングを覗き込む──きょとんとした顔のシェゾ。
「…………」
ラグナスは、自分の手をしっかりと握っている男をもう一度見た。
疑問符を浮かべつつ、小さな笑みを浮かべてその視線を受けたのは紛れもなくシェゾだ。
さらに、キッチンから顔を出す男を見た。
不思議そうに眉を顰めている端正な顔のつくりはどう見てもシェゾだ。
─両方とも、ドッペルゲンガーでもなく間違いなく銀髪に蒼い瞳のシェゾ。
「………………!?!?!?」
「なんでもない。驚かせちまっただけだ」
「ふぅん。朝飯出来るぞ、座ったらどうだ?」
ラグナスの腕を掴んでいる方のシェゾは、自然にキッチンにいる方のシェゾに話しかけた。
キッチンのシェゾも特に驚くこともなく応えてラグナスを見やる。
ラグナスはといえば、信じられない光景に目をむいたまま口を大きく開けて呆けていた。
そして。
「はよ。ラグはもう起きたのか?」
にこやかな顔と爽やかな声で窓から室内を覗き込む三人目のシェゾ。
「おい!ラグナスいるか!今日は俺と鍛錬をする約束だろう!」
玄関から大声を上げつつ入ってくる四人目のシェゾ。
「…ラグナス?どうした?具合でも悪いのか」
部屋の影からおずおずとラグナスを心配げに見つめる五人目のシェゾ。
「…………え…………」
ラグナスは自分の周りをぐるりと見回した。
声を聞いただけでも五人確認できるが、他にも七人程気配を感じる。
みんな自分を見ている。
24つの蒼い瞳が、じっと。
血の気が引いていく。
ざーっという音を立てて、ラグナスの顔色はあっという間に蒼くなっていた。
「ラグナス!早くメシ食えよ!」
「くく…ッ…。面白い顔してないで、しっかりしろよ」
「ラーグ、いつまでも寝ぼけてると日が暮れるぞ?」
「さっさと食えよ。鍛錬するぞ!」
「調子が悪いなら無茶するなよ。身体壊すから…」
「…今日はオレと買い物に行くんじゃないのかよッ」
「……俺と……」
「俺が飯食わせてやるよ。ほら、あーん」
「そうだ、ラグナス。今度新しい術作るのにちょっと魔力が欲しいんだが」
「…あー…。プチトマト落ちた……」
「ラグナス?…どうしたんだよ、今日は様子が可笑しいぜ」
「お気に入りのシャツでも失くしたか?アレは確か2段目の引き出しに」
『ラグナス!!』
キレイにはもらせて、12人のシェゾ全員がラグナスの顔を覗き込んだ。
気配だけの時点で血の気が引いていたラグナスは──今度こそ気を失った。
「…おい!起きろ!」
「ッ!!!!」
鋭い怒声で飛び起きる。
ラグナスは飛び起きるなりぜいぜいと荒い呼吸を繰り返す。
「大丈夫かよ」
「だいじょ…ひぃあ!!?」
自分を起こした人物の安否を気遣う声に応え──それがシェゾだったのに全身で拒絶を表して後じさった。
先ほどの悪夢の続きかと周囲を見回すが、そこは自分の家ではなく、どこかの木の下だった。
そして。ずきずきと痛む頭。
一番痛む場所をそっと触るとかすかにたんこぶになっていた。
「…打ち所でも悪かったのか?」
「こ、ここは?俺は一体…」
「お前が剣の稽古に付き合えって言うから付き合ってやってたんだよ」
ホントに頭大丈夫か、と憎まれ口を叩くシェゾに、では今までのことは夢かと息をつく。
「良かった…ホント夢でよかった…」
「随分うなされてたな。てっきり俺が殴った場所が悪かったのかと思ったじゃねーか」
「あはは、ごめんな。ちょっと変な夢を見て…た…だけ」
ラグナスは、ふと思った。
これももしや夢の続きではないだろうか。
目の前のシェゾが本当に現実のシェゾという確証は無い。
ごくり、とツバを飲み込む。
「シェゾ、君──まさか…」
「ん?」
悪夢はまだ終わらない。
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あとがき>>
7万記念リク:シェラグシェ(ry
シェゾ一杯!という内容でしたので、攻略対象が主人公が大好きなあのゲームから。
ある意味ハーレムといえなくもないね!
リクしてくれた方だけどうぞ。
PCUP=2007/11/25
モドル