〜MEET BY CHANCE UNDER THE CHERRY・BLOSSOM〜










 もう一度逢えたらいいな。
 あの、綺麗に咲き誇ったサクラの木の下で。





 もう一度、逢えると良いな。
 …もう…一度だけ。





 逢いたい。















 口数が少なく、寡黙な青年は、ことのほか月見や花見が好きだった。


 どこか野性的な光を灯す瞳の青年は、一本だけ狂い咲いたサクラを見上げている恋
人に意外そうに、けれど、優しい笑みを浮かべて彼を見つめていた。
 柔らかい風が吹き、ピンク色の花びらが儚く舞う。それにより軽い花吹雪が起き、
二人は少しの間目を細めた。
 花吹雪がやむと、そこには花びらにまみれたお互いがいて。
 思わず噴き出すと、何枚かの花びらがその笑みの振動に落ちる。
 そんな、ゆったりとした空気の中か。
 
 ─…なあ。ラグナス?

 ふと、何か思いついたように恋人が口を開く。

 ─ん?どうした?

 ─……。もしだが、…俺が死んだら、「ここ」に埋めてくれるか?

 ─…。

 ─……。駄目か?

 苦笑して振り返る、恋人に、青年はただ無表情だった。
 いや…、無表情、というよりは、普段滅多にしない厳しい顔をしていたのだが。
 それから、随分間をおいてようやく口を開く。

 ─…死なせない。

 ─…。

 ─お前を、…死なせたりなんかしない。
 
 低い声色で、恋人をまっすぐに見詰めて。
 驚いたような、困ったような複雑な顔を、厳しく睨んで。

 ─ラ…

 ─でも。

 名を呼びかけるのを遮って、続ける。

 ─……お前が、そう望むなら。

 俯き、表情を隠して、ラグナスはそれだけを搾り出した。
 恋人はそれに、艶やかに微笑んで、ただ一言礼を述べた。
 そして、拳を握り締めている青年を抱き寄せる。
 
 ─好きだ。

 ─…。

 ─…離れ離れになったら、また「ここ」で逢おう。
 
 ─…。

 ─約束してやるよ。

 ─…なんで…今そんな事言うんだよ。

 ぎゅう、と。
 恋人の身体を強く抱き返し、問うた。
 すると、少しの沈黙の後、苦笑の振動が触れた頬に感じる。
 
 ─酔ってんだよ。…きっと。

 ─酒も無いのに?

 ─いや…。…この桜に。

 ─…あなたロマンチストね〜。惚れ惚れしちゃう。

 ─は?なんだそれ。…やっぱお前擦れた。

 ─あはは。

 誤魔化して、笑った。
 それから─隙間なんて許さない、とでも言うように、恋人の身体を強く抱きしめる。
 
 ─じゃー、俺もそれに便乗。俺も酔ってるってことにしといて?

 ─…ああ。

 ──愛してる。

 何故か掠れてしまった声で囁いて頬を撫で、唇を寄せる。
 恋人の顔が仄かに赤くなっているのに、狂おしいほどの愛おしさを感じた。
 目を細め、蒼い瞳を至近距離で見てやると、思い出したようにその瞼が下りる。
 それを確認してから、唇が触れるか触れないかの距離で、また、呟いた。 

 ─愛してる。……シェゾ。

 恐らく自分の顔は、シェゾに負けないほど赤くなっていることが予想された。
 単語だけなら何度も口にしたのに、どうも名を読んでこの言葉を言うのには慣れない。
 すると、ぷ、と、シェゾが噴き出した。
 
 ─ぇ…?

 ─お、前…っ…その顔…っ!

 ─…ぁあっ!?お前、薄目開けてたな!?

 くくくくっ、と、シェゾが肩を震わせて笑うと、ラグナスはやっとそこでその事に気が付き、羞恥で頬を染めた。

 ─わ、笑うなよ!…ったくぅ…。

 ─いや、わりぃわりぃ。

 ─…笑いながら言われてもねー。

 すっかりラグナスがふてくされると、シェゾはますます笑う。
 
 ─悪かったっつってんだろ?

 ─…。

 ラグナスは、無言で顔を伏せる。
 拗ねたか、とシェゾは苦笑したが、些か様子が妙だ。
 俯いたまま一向に顔を上げる気配がない。

 ─ラグナス?

 ─…。

 訝しんで覗き込んできたシェゾに、俯いたラグナスの口元がにやりと笑って。
 その表情に驚いたシェゾの首に腕を回して更に引き寄せ、耳元で三度囁いた。

 ─…好きだ。愛してるよ。

 ─!!

 直に耳に吹き込まれたそれに、シェゾはそこから顔から果ては身体までが熱くなるのを感じた。
 その隙を待っていたかのようにラグナスは唇を奪いにいく。
 不意をつかれて重ねられた唇に更に顔が熱くなる。
 鼻から抜ける呻きを上げるシェゾへ、先ほど笑われた報復といわんばかりに、押し倒す気で唇を貪った。
 それはもうこの上なく男らしく口付けてやって、閉じた口唇を舌先で割り開く。
 
 ─っ、ん、…ぅ─!

 熱くなっている口内を散々荒らしてやれば、シェゾはそれだけでかくかくと膝を振るわせる。
 腰なんか、ラグナスが腕で支えていなければ立っていられないであろう程に砕けていた。
 背中に縋る腕が強くなって、ラグナスはそれだけでも眩む。
 今が昼じゃなくて、夜だったら。
 間違いなくここで押し倒して美味しく戴いていたところだった。
 しかし、それくらいの自制は(辛うじて)出来る。
 それでも最後の最後まで名残惜しそうに唇を離せば、銀糸が細く架け橋を作って切れた。
 
 ─〜〜〜…っ!

 真っ赤な顔で唇を押さえ、わなわなと震えだすシェゾから、彼の次のリアクションが予想できたラグナスはさっと身を離して背を向けて逃げ出した。

 ─このアホ────ッ!人に見られたらどうする気だったんだ──ッ!!

 ─シェゾが悪いんだろっ。そんなの知るか〜!!

 ─こ、の、……似非勇者がッツ!!

 猛ダッシュで逃げていくラグナスの後を、シェゾは同じくダッシュで追いかける。
 
 ─このェロガキ!…待ちやがれ!!

 ─エロいのはどっちだよ!キスだけで腰砕けて!

 ─!!!

 おおよそ、普段の彼等からは予想できない言葉の応酬がその後何回か交わされ、恋人同士の追いかけっこは続いたが─、日がオレンジ色に変わるころには、そこに二人の姿は無かった。







 それは、全ての生物の運命をかけた、決戦前日の事だった。


 




 そして今。

 決戦を生き延びたラグナスの隣に、シェゾはいない。
 彼の目の前には黒い無名の墓碑が佇んでいた。
 名前が無いのは、そこに墓碑の主がいないから。
 
 墓碑は、あの日シェゾと約束した、桜の木の下に作られていた。
 季節もあの時と同じになって、今年もまたこの桜は一本だけ狂い咲いて。
 ああ、あの時もこんな天気だったな、と、ラグナスは微笑んだ。
 



 決戦の最中。
 二人は、怒涛の混乱の中でお互いを見失い、決戦終了後もとうとう再開する事は無かった。
 アルルもルルーも、そして他の仲間も。
 皆が揃った中に、シェゾだけがいなかった。
 全員が、探した。
 あの、顔をあわせればいつも喧嘩していたルルーですら、必死になって探して。


 けれど結局見つからなくて、今に至る。


 墓碑は、ラグナスが個人で建てた。
 勿論、『死なせない』といった手前彼が『死んだ』なんて信じたくなくて、名前は入れていない。
 今は月一くらいの間隔でここに来ては墓碑の前に座って、胡坐をかいて、ぼ〜っとしている。
 
 勿論、そうしているのは『約束』のせいもあるのだけれど。 

 あの約束から丁度一年が経つ。 
 季節が廻る中で、シェゾのいない時はあっという間に過ぎ去っていて、彼の記憶の中にこの一年どう過ごしたかなど全く残っていなかった。
 「まあ、お前がいない記憶なんかいらないけどね…」
 苦笑じみて、墓碑を撫でた。
 「ついこの間来たばっかりだけど、また来たよ。…何か今日は来なきゃいけない気がしてさ」
 ─予感がしたのと、ついでに『約束』から丁度一年というある節目を迎えたので、ラグナスは今日の予定を全てキャンセルしてこの木の下にやって来ていた。
 「あー…いい天気だねー」
 独り言を言いながら、ごろん、と背中から大地に転がる。
 見上げた先にあるのは、やはりあの時と同じ、風吹かれて舞い散る桜。
 
 ─綺麗だなあ…。

 ぼんやり考えて、目を閉じる。
 気持ちのいい気候にまどろみそうになって、しかしここで寝るなという声が頭のどこかで上がる。
 だが、眠気と暖かい気温には勝てず、そんな理性はとろけて消えた。










それから、どれくらいの時間がたったのだろうか。
 ラグナスはふと自分にかかる陽光が遮られているのに気がついて目をあけた。
 ……その間何回も、瞬きをした。
 夢かと思った。













 「なぁに昼間っから寝てんだよ?」













 まさか、と、震える手を伸ばした。
 ─触れられて、温かい。










 これは、夢だろうか。
 目を閉じたら終わってしまう、夢ではないだろうかと、ラグナスは再び瞬きできずに目を見開いていた。
 それを、苦笑じみて覗いていた蒼く切れ長いが、ゆるりと微笑み、そしてその口元が、確かに動く。





 「よお、─ただいま」





 それは確かに、鼓膜を震わせる音となって、ラグナスに響いた。





 ラグナスは、上半身を少し起こして、自分にかかる陽光を遮るようにして屈み、自分を覗き込んでいる男をその腕に抱きこむ。

 「…」
 「…」


 少し痩せた?とか。
 
 今まで何処に行ってた。とか。

 心配したんだぞ。とか。


 言いたい事はたくさんあって。


 でも、まだこの腕の中に抱きこんだ男が、本当に現実だと感じられなくて何も言えずにいると。


 
 「……ただいま。ラグ」



 ぎゅう、と、確かに抱き返されて。
 ラグナスは、ただ柔らかな笑顔で一言だけ



 「おかえり…シェゾ…」



 ─そう応えた。










 
 風が吹いて、桜が散っていく。
 









 「…約束したもんな」
 「うん」
 「……守ったぞ。…約束」
 「…うん」
 「生きて帰って来れた」
 「うん…」
 「……」
 「…ね。一杯触らせてな?」
 「…は?」
 「一年間分。(がしっ)」
 「へ?」 
 「……。ずっと禁欲生活してたんだからそれくらい当然(ぐいぐいぐい)」
 「……お、おい?(ずるずる)」
 「…寝かさないからね。覚悟しとけ」
 「はぁ!?おい、マテ!!冗談じゃねえ…ッ!」
 「足腰立たなくしてやる…(ぐいぐい)」
 「いや、あのな、…コラ!!(ずるずる)」
 「もう、俺から離れられないようにしてやるッ」
 「ぐぁ。待て、頼む!それは微妙に困る!!」
 「(ぐいぐい)やだよ。止めないし待たない。」
 「せ、せめて今日は勘弁しろ!!…ここまで戻ってくるだけで足腰がたがたなんだ!」
 「(ぴた)…へえ?」
 「…?」
 「…分かった。『今日は』勘弁してあげる★」
 「(ほっ)」
 「…明日。…一日中ベッドから降りられないけどね…?」
 「─!!(墓穴…!)」
 
 
 「(ぐいぐい…)…なあ?」
 「(ずるずるずる…)……あ゛?」
 「……愛してるよ…シェゾ」
 「…ああ。」
 







 †…END…†









 管理人>
 (こそこそ…こそこそ…)……っは!?見つかった!(何)
 どうも。白銀様、リクエストアリガトウございました。
 『桜』と『ラグシェ』(?/ォィ)という事でタイトルも『桜の下での邂逅』ということで…。

 な、長々と駄文申し訳ありません…!!(ブルブル…!!)
 その上何!?妙にシェラグ!!(爆死)
 …スイマセン。ラグシェなんです……(泣)
 
 ああどうしましょう…。…これで確実に何人か敵に回した気がッツ!(死)


 PCUP=2004年6月26日

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