永訣の 夜

 「……」
 

 見つめた先に転がる 自分と同じ顔
 虚ろな瞳が
 怖くて

 「……D?」

 囁くように呼んだ

 長く、さらりとした己の髪が頬を撫でる

 
 無駄に長いスカートを
 彼が自分に似合うと言ったスカートを

 彼の血で汚さないように気をつけながら彼の傍にしゃがんで


 「……何の…冗談……」


 彼がこんな
 
 誰がこんな

 どうしてこんなことに

 どうしてこんなことを

 
 ─そもそもどうして自分はこんな恰好で
 こんな 女の恰好なんかして
 自分と同じ顔をした男の傍にいるのだろう


 「─シェゾ……?」
 

 「……」
 「シェゾ、だよな」
 「……」
 


 久方ぶりの、彼以外の自分を呼ぶ声
 その方へ目をやると、紅く濡れた剣を抜き放ったままの青年が呆然と自分を見ていた
 金の鎧を纏った、鳶色の瞳の勇者───ラグナス

 
 「…大丈夫か?シェゾ」
 「…ラ、グ…」
 

 お前が、
 Dを
 こんなことに?


 「もう平気だからな…。─助けに来たよ」
 「…助……け…?」


 何のことだ
 俺は知らない
 俺に助けは要らないはずだ
 
 例えDに囚われていたって
 それは俺も望んだことだったんだ
 だから助けは要らないんだ

 そうだ
 俺は望んでコイツの傍にいた
 望んでコイツに支配された
 望んで、こんな、狂気の沙汰としか思えない、女の恰好なんかして

 ずっとコイツの傍で繋がれて


 「シェゾ、動けるか?」
 

 差し伸べられる手をとって、立ち上がると
 急に抱き締められて
 
 無事でよかった
 逢えて良かった
 と、胸が苦しそうな声で
 囁かれた


 「……」


 ─目に、残っている虚ろな紅
 それが、意識のどこかを壊した




 「─…闇の剣よ」
 「ッ!?」




 密着した、自分とラグナスの間に
 また赤が散る
 抱き締める腕の力が
 縋る力に変わって、やがてずるずると


 「シェ、……ゾ…?」


 「……」
 「なん、で…」
 「…」
 問いかけに答えずに
 突き刺した剣を捻る
 その途端にラグナスの口から血が溢れて、縋りつかれた胸に紅く染みが広がった

 「…─違うんだよ」

 俺を抱くのはお前じゃない





 事切れた青年を振り払って
 床に倒れ伏せた男に歩み寄った
 「……おい」
 もう、この際血の汚れなんか気にせず
 傍にしゃがんだ
 「………呼べよ、俺を」
 からかうみたいに、自分を女の名前で呼んだ彼
 「シェリーって、呼んでみろ」


 今度は、躊躇せず返事をしてやる


 俺は、その道を選んだ

 このキョウキの中で
 狂っていくことを選んだ
 差し伸べられた最後の救いを断ち切って
 俺は




 俺はコイツと共にいることを選んだ





 どこかが壊れてしまっても
 俺が壊れてしまっても
 何かを壊してしまっても
 










 嗚呼 今宵は、永訣の 夜
 冷たく転がる二つのからだの その一つの愛しい方へ
 髪もドレスも 汚れることを気にせず 縋り付いて
 一緒に逝けはしないだろうかと

 目を閉じる
 一緒に逝かせてはもらえないだろうと
 思っていても
 

 だって離れたくないんだ
 俺が一緒にいたいのはコイツなんだ
 でもコイツがもう俺へ歩み寄ってくることは無いから
 俺から歩み寄るしかない
 




 嗚呼 今宵は、永訣の 夜
 この日 『三人』が 浮世と別れを告げて
 









** END **


 管理人より>Dシェシェリ第二段〜。
 …今回はDシェシェ←ラグでお送りした模様です。
 永訣は永遠の別れと言う意味らしいです。
 ちなみにシェゾさんは死んでませんのであしからず+(何ぉ)

 PCUP=11月2日

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