銀色の髪が
 好きだと想う。


 「…何見てんだよ」
 「…いや」

 不機嫌な声が、好きだと想う。

 切れ長い瞳の中に、自分が映るのが酷く嬉しくて
 俺は口の端を笑わせる。

 心から。

 俺はこの男を愛しいと、欲しいと、思う。

 例えそれが、冒涜であっても。
 彼を手に入れるためなら喜んでそうさせてもらう。
 「……あのな。そんなに見つめられると、穴が開くような気がするんだが」
 「開いてしまえー」
 俺は、呆れたようなシェゾに笑って言う。対して、それを聞いたシェゾが『む』と眉を寄せた。

 その表情も、好き。

 「オマエ、最近擦れてきてるんじゃねーのか?」
 大げさな溜息をつくシェゾ。俺は、そうかな、と首を傾げる。
 そうすると、シェゾは銀の髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。
 「…自覚なしかよ」

 そうでもないよ。
 自覚はある。
 「しかし、お前も大概暇なヤツだな。…俺に付き合って楽しいか?」
 「ああ、楽しいよ」
 シェゾの手には、たくさんの魔導触媒。何かの実験をするらしい。



 本当に偶然、さっきウィッチの店の前で会った。
 たくさんの荷物に、半ば途方にくれているようにも見えるその姿の持ち主を、俺が間違うわけがなく。
 俺はシェゾの荷物持ちをかって出た。

 シェゾと一緒にいる口実が欲しくて。

 シェゾは、片手で持ちきれるほどになった荷物を喜んだ。
 表面には出ていなかったけど、ほんの少しだけ、笑っていた。
 口では、『いらん世話を』とか言うくせに、その顔は照れたみたいに歪んでた。



 「…お前、本当に暇人か」
 「…まあね」
 することないし、と続ければ、皮肉っぽくシェゾが笑った。
 「さびしーねぇ。…いい娘でもいねーのか」
 いい娘。
 ”どきん”とした。
 迂闊にも驚いたせいでか顔が赤くなるのを、しっかり見られた。……あげく。
 「…なんだ、いるんか?」
 妙な誤解をされてしまった。
 シェゾがニヤついた顔でこちらを覗き込んでくるので、俺は目をそらす。
 …いい娘、じゃなくて…
 いい、『男』、なんだけど。しかも、すぐ隣にいる。
 「朴念仁だと思ってたが…。や。見直したぜ、俺は」
 シェゾは何か勝手に自己完結してる。
 「そんなんじゃない…。驚いただけだ」
 少したしなめる気で言えば、けれどシェゾは『へーへー』と笑うだけだった。


 ─もし、ここで。

 『俺が好きなのはお前だよ』

 なんて、言えたらいいのに。


 「…おい、どうした?」
 「!」
 シェゾの顔がアップになる。いつの間にか俺は俯いてたらしく、反射的に顔を上げた。
 「…なん、でもない」
 両腕に抱えたシェゾと自分の荷物を抱えなおして、俺はシェゾとの並進を崩し、二、三歩前を歩いた。
 「…」
 溜息が後ろから聞こえる。
 「…気ぃ悪くしたんなら、………悪かったな」
 シェゾがばつの悪そうに言う。最後の言葉は、小さくて聞き取りにくかったけれど、謝ったことは確かだった。
 あんまりにも珍しいので思わずその顔が見たくなって振り返ると、なんとなく居心地の悪そうな顔で、シェゾが視線を下に落としていた。
 ぎょっとする。
 「な、べ、別にそういうわけじゃない!気にするなよ」

 だから。


 ─そんな顔をするな。

 理性が崩れるじゃないか。


 ─理性が崩れる?ナンダソレ。
 俺は、ケダモノか?


 自嘲的な笑みが零れる。
 …こんな道端で。何も知らない相手に。
 「…ラグナス?」
 名前を呼ばれて、シェゾの方を見やれば。シェゾはいぶかしんだ顔でこちらを窺っていた。
 俺は、それに『何でもないんだ』と笑い返した。




 言えないだろ?こんなこと。
 今、凄くシェゾにキスしたかったなんて。




 シェゾが、また隣に並ぶ。
 俺は、やや速いシェゾのペースに合わせた。
 「なあ」
 「?」
 隣のシェゾが、意地悪く笑ってる。…なんとなく逆らいがたくて言葉の先を待っていれば、シェゾは触媒を一つ取り出してみせた。
 「どんな実験か、興味あるか?」
 俺は損得なしに素直に頷いた。
 シェゾがいる、いないに関係なく、この荷物が何の実験材なのかには好奇心が沸き始めていた。
 それをみたシェゾが、短く『よっしゃ』と声を発する。
 …?何なんだ?
 恐らく俺は相当憮然な顔をしていたのだろう。
 シェゾは、そんな俺をからかうように荷物を示す。
 「知りたいか?」
 頷く。
 「じゃ、これからお前俺の手伝い!ハイ決定文句はないな?」
 「…。拒否権は?」
 「無い。(きっぱり)」
 俺は、気が抜けて思わず笑って返した。それをしてやったりと満足そうに確認したシェゾは自宅への足を速めた。







 ─…まぁ、いいさ。
 しばらく、このままで。
 時間はたっぷりある。
 どうしても、我慢できなくなるときまで、この『友情ごっこ』を続けよう。

 けど、我慢が出来なくなったら。

 ─シェゾ。覚悟しろよ。
 絶対逃がさないからな─





 □END□


管理人より>

×っていうかラグ→シェ…(汗)


PCUP=2004年4月3日

モドル
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