お前のいない世界に 俺が存在する理由は無い。
お前のいない世界
目の前で、見た。
アイツが死ぬのを。
俺を見て笑った。
血塗れの、それでもいつもの、あの優しい顔で。
間に合わなかった治療。
間に合わなかった、アイツを抱きこもうと思った腕。
─泣かないで?
最後の言葉がそれだった。
畜生。
最後の最後まで、人の事ばっかり気にしやがって。
どうして死の間際になってまでそんなに優しかった。
死の間際くらい、死にたくないとか、そんな風に汚く足掻いて喚いてみせたって良いだろうに。
畜生。あの馬鹿。
挙句、俺を置いて先に逝きやがった。
冷たく鋭い痛みが左手首に走って、次に、ドロドロと生暖かいものが流れた。
「……」
身体を投げ出して、大の字になって、それを放置する。
鼓動と共に流れ出る、今の今まで俺を生かしていた血。
「…お前がいない世界に、俺が存在する理由は無い」
自嘲して呟いた自分の声が遠い。
後追いなんて、ナンセンスな事俺がするとは思わなかった。
今の今だってこんなことしてる俺が信じられない。
眼を濡らす暖かい水が、涙であるというのも信じたくない。
もし涙だというなら、コレは、アイツのために流しているのではなく。馬鹿な真似をして泣けてきているのだと思いたい。
─緩慢になる思考に身をゆだねて目を閉じた。
もう開く事は無いだろうと。
…。
……。
………?
「─気がついた?」
…目が覚めたとき、まず聞こえたのは女の声だった。
目をやればそこには、妙に強張った顔をしたルルーがいる。俺はうまく動かない頭で、それでも訊ねた。
「……ここはどこだ」
「私の家…よ」
「…何故…」
─何故助けた。
「…アンタ、何馬鹿なこと言ってんの!?ホントに死ぬ気だったの!?」
「耳元で怒鳴るな…」
怒鳴り声を聞きながら身を起こし、左手首を見やると包帯が巻かれている。
俺は俺が、まだ生きている事に微かに絶望したように感じた。
相当末期だと、笑いがこみ上げる。
「大体後追いなんてしても─ラグナスは喜ばないでしょう!?」
「……うるさい……。……そんなこと知るか」
「な…っ」
「…─アイツのいない世界に、俺の存在する理由は無い。それだけだ」
繰り返した言葉がゆっくり浸透する。
言葉を失ったらしいルルーが暫し沈黙した後、俺は俯き、視線を左腕に落として呟いた。
「………死なせろ」
─ぱんッ。
短く、渇いた音が部屋に響く。それから鈍く頬が痛み出す。
「…ふざけんじゃないわよ……!」
「…」
怒りに震えるルルーの声に、俺はただ口を閉ざしたまま無言でいた。
「暫く……頭冷やしなさい。馬鹿」
「それはお前もだ」
「……」
何か言いたげな口がすぐ閉ざされ、踵が返される。
振り向かず部屋を出るルルーに、俺は微かな罪悪感を感じながら再び身をベッドに沈めた。
「…どうして追わせてくれない」
また、目尻が熱く濡れる。
「生きてる理由もないのに……」
震えた声に、唇を噛んだ。
お前がいなくなった世界で
俺はまだ生きている。
存在する理由もなくなったこの世界で、まだ。
**END**
管理人より>葉月さんのステキなリストカットイラストに触発されて押し付けた小説です(爆)
ラグシェです。ええ。ラグシェです。
葉月さんのイラもラグシェをイメージしたそうですので(ぉ)
PCUP=2004年12月5日
モドル