『お前がいなくては生きていけない』と、
 呟いた時の顔を忘れられない。
 心の底から湧き上がった優越感からか、
 口元を吊り上げて愉しげに、嬉しげに、笑った。
 俺もだよと、すぐにいつもの笑顔を浮かべてお前は言う。

 返り血のついた顔で、何ともないように。



 俺に、性的な意識を持って触れようとした腕が目の前で斬り飛ばされた。
 驚き慄く相手と、何が起こったのか一瞬把握できなかった俺の間に滑り込んできたのはあいつ。
 俺には目もくれず、ただ相手をそのまま肉塊に変えた。
 多分悲鳴も聞こえていなかったのかもしれない。
 横顔から見える鳶色の目は恐ろしく平静で、俺ですら少しの恐怖を感じる程だ。
 ─ラグナスは、鋭く剣を払った。
 「大丈夫だったか?」
 振り返った顔は笑みを浮かべると、伝い落ちる赤いものを無造作に拭いて、静かに鞘へ剣を収める。
 俺は乱された衣服を直して頷き返した。
 行こうかと差し出された手は、相も変わらず血塗れ。
 それは拭いもせずに微笑みを浮かべている。

 「シェゾ?」
 「…ん?」
 「俺の手に何かついてるかい?」
 「…いいや」
 汚れようが構わない。

 俺は、その手を掴んで引かれるままに足を進めた。
 ぬるりと生暖かい感触はすぐに乾いていく。
 けれど少し低い位置にある黒髪にこびり付く血の匂いは、一向に消えそうになかった。
 他愛のない雑談を交わしながら宵闇を暫く歩いたところで、手を握る力を強める。
 「どうかしたのか?」
 「…俺は」
 「シェゾは?」
 「─俺は、お前がいないと、ダメなのかもな」
 「…」
 顔を見られないように伏せて呟き、反応を見ようと目だけで表情を窺った。
 だが、見られたのは笑った口元だけだった。
 表情すべてを把握する前に、それはすぐに消えてしまったから。
 「俺もだよ」
 そして、唇に掠る程度の口付けをしながらの、嬉しげな返答を返された。


 血に濡れた手を振り解くことが出来ない。
 むしろ振りほどかれないことを祈りながら、それにすがり付いている。
 これを、誰かは『依存』と言っただろう。






 /*Fin*/
 


 あとがき>>
 何気にシェゾ視点でのラグシェダークってなかったようなあったような。
 でも最近は書いてなかった気がしたので。


 PCUP=2007/05/22


 モドル
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送