闇の貴公子サタン様は、大層難しい顔をしてらっしゃいました。




 「…なんだよ」
 その視線の先にいたのは、闇の魔導師シェゾ。
 「…うむ」
 サタンは、意を決したように一度咳払いをした後、言った。



 「シェゾ。『好き』と、言ってみてはもらえんか」



 「…は?」
 シェゾの顔が、この上なく間の抜けたものに変化する。

 「すき、って─梳き?」
 「好き!」
 「隙?」
 「好き!」
 「鋤?」
 「好き!」
 「透き?」
 「好きっ!」
 「空き?」
 「好き!!」
 「酸き?」
 「好き!!!」
 「ああ!」
 「そう!」
 「数寄か!」
 「わざとかコンチクショウ!」

 納得顔で手を打ったシェゾとは対照的に、サタンはぶわぁっと涙を噴き出しながら中指を立てる(下品)。
 するとシェゾは長〜く溜息をついて首をふって見せた。
 「分かってるよ」
 「ん?」
 ぐすん、とサタンはお子様よろしく鼻を啜って肩をぽんと叩くシェゾを見る。
 シェゾは柔らかに笑う。それにドキリ、として次の言葉を待った。
 「漉だろ?」
 「…大概にしないとオヂサン怒るよ」
 「冗談だ」
 はっはっは、と、棒読みでシェゾが笑う。目も笑ってない。
 「…つうか、何なんだよいきなり。」
 至極真っ当な意見である。
 「…ただ、なんとなく…」
 「とかいったら容赦なく脊髄に電極差すぞ☆?」
 「☆とか笑顔とか使ってそら恐ろしい事言わないように。」
 今度こそにっこりとした笑顔を浮かべてはいるものの、その口が発したのは恐ろしい発想で、サタンは思わず『びしぃっ』と裏拳が出てしまった。
 またも『冗談だ』とシェゾは笑うが、その顔は本気だった。
 あな恐ろしや闇の魔導師。
 サタンは、ひくひくと強張る顔を辛うじて押さえて頬をかいた。
 「や、本当に何となくなのだ。別に、深い意味は無くてな…。何というか、お前からそういう言葉を聞いたことがないし」
 もごもごとはっきりしない物言いに、シェゾは呆れたように溜息をつく。

 ─まーたそんなくだらないことを…。

 やれやれと頭をかいていると、サタンがやや屈むようにしてシェゾを覗き込んだ。
 「…私が嫌いか?シェゾ」
 「…。」
 ぷ、と、シェゾは吹き出しそうになるのを耐えた。
 「ガキかよ、お前」
 「ううう…っ!な、何とでも言えッ」
 「おぅ、言わせて貰うぜ」
 くっくっく、と、耐え切れない笑いをかみ殺しながらサタンの襟を掴んで引き寄せる。
 それから、耳たぶに軽く噛み付いて、吐息で囁いた。


 「─好きだ」


 「─ん、なぁあっ!?」
 素っ頓狂な声を上げて、サタンは体をびくつかせた。
 聞いたことも無い掠れた声で告白されて、意図せず顔が熱くなった。
 シェゾはそんなサタンをやや強く突き放して、振り返りざまに吐き捨てる。
 「何とでも…って、言ったろ?」
 「い、言った、言ったな。言ったけれども。…シェゾさん?」
 「だから、何とでも言っただろ」
 「…。私以外にそれを言うなよ。」
 照れ隠しにサタンもシェゾに背を向けて、早口でまくし立てた。
 シェゾは、今度こそ盛大に破顔した。
 「…バーカ」
 「んな」
 聞き捨てならん、と振り向くと、シェゾは可笑しくてしょうがなそうに肩を震わせていた。
 「奪うみたいに俺のことヤッといて、今更聞くな。ァホ」
 「…あ。」
 「あんなやり方で、どうしていつまでも俺がお前の傍にいると思ってんだ?タァコ」
 「う。」
 激ニブ、と、シェゾは最後にそれだけ言って転移魔法で姿を消す。




 黒いつむじ風の後に残ったのは、照れていいやら怒っていいやらで複雑な顔をした闇の貴公子一人。




〜END〜




管理人より>カナリ様よりリクエスト

 カナリ様>二回ものリクエスト有難うございますうううう!(土下座)
 微妙にシェサタっぽいサタシェです!甘甘な感じです!
 書いてる本人砂糖吐けました!(笑)


PCUP=2004年4月6日


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