─眠っていたのかもしれなかった。
ふと気が付いたように意識が闇から浮上し、一転して世界の色が蘇る。
今彼がいるのいは、とある塔の最上階のフロア。
─彼以外の『外の』人間は、ここのことをその高さと中に蔓延る魔物の強さから、『究極の塔』、すなわち『アルティメットタワー』と名づけたようだ。
だが、彼にとって、そんな事は興味の対象外だった。如何に自分で造り上げたこの塔が『究極』と呼ばれようとも、その塔の主である『彼自身』が完璧なものではないからだ。
─彼は、『ドッペルゲンガー』と呼ばれる存在として、そこに在る。
その姿は、ある闇の魔導師と呼ばれる男の姿とほぼ同様のものだが、唯一、その瞳だけが『紛い物』の証であるかのように、闇の魔導師のような『蒼』ではなく『深紅』に光っていた。
当然、闇の魔導師が瞳の色に合わせるようにしていた青いバンダナは、その深紅の瞳に合うはずも無く、彼はそれを己がものに合わせて紅いものに替えた。
少しでも彼に『近く』、また、『違う存在』であることを主張するように。
…しかし、どんなに『近く』なろうと、『違く』なろうと、結局彼は、ただの『ドッペルゲンガー』のままだ。
現在の『オリジナル』より力が強くても、それが変わる事は無い。
彼は、それが気に入らなかった。
だから、彼は『本物』になる事を決めた。
フロアにある、下層への階段から足音が響く。
それは確認しなくても、彼の待ち人の足音だと分かった。
ユラリとした動作で、フロアの真ん中まで歩む。そして、本物より劣るとはいえ、それでも相当な邪気を放つ魔剣を、抜き身のまま身体の横に置く。
足音が大きくなっていくにつれ、そのグリップを握る力を強めて、『彼』が現れるであろう場所のみを、睨みつけた。
─そして。
彼の『オリジナル』である『彼』が、フロア中央に立つ己と対面し、驚いたように声を上げる様に。
彼は、『オリジナル』ですらしない冷たい笑みを浮かべた。
憎くて、憎くて、それなのに、我が心をそれとは違う感情で縛りつけるお前。
この『感情』が何なのかは、分かりかねるが…。
これだけは、確実だ。
我は『お前』になりたい。
─だから。
その存在の全てを。
我に与えてくれないか。
…とめどなく流れる、真紅の契りを持って。
++END++
管理人より>微妙なDシェシェ?
…しかし作者はDシェシェだという自信が持てません。(苦)…あぁでも…。三人称だけだとこんなに楽なのか…。(殴滅!)
PCUP=2004年4月6日
モドル