あの時は本当に、そう思っていたのに。
 今では何故かそれが叶わない事を祈るばかりで。
 それどころか、彼女があいつの傍にいるのすら、心を乱される。
 ─この気分は何なのだろう。





 願い事





 前を歩くシェゾと、地図を手にパーティを率先するアルルの背を見ながら、俺は妙な気分に苛まれていた。
 それも、ここ数日ずっとだ。
 いらいらするというか─もどかしいというか。
 らしくない…。何をこんなにイラついているんだろう─?
 「…?ラグナス?大丈夫?」
 それに気付いたのか、アルルがふと俺を振り返った。
 『気分でも悪いの?』と首を傾げられて、俺は苦笑して手を振って応える。
 「何でもないんだ。気にしないでいいよ」
 「…でも…」
 「お前の『何でもない。』は信用できねぇな」
 「…シェゾ」
 あまり追求されると、こっちも応えに困ると顔を上げると、青い瞳が妙に剣呑に光っていた。
 「アンタってば辛くても言わないしね。こればっかりはそこのヘンタイと同意見よ、わたくしも」
 「…フン」
 俺の後ろのルルーまでもが溜息混じりに続く。
 鼻を鳴らすシェゾに、パーティの足を止めてしまった俺は何故だか居た堪れなくなって頬をかいた。
 「いや、本当に何でもないんだけど…」
 自分でもこの気分をどういって良いのか解らないうちは下手に言い表さない方がいい。
 特にアルルは人一倍他人を気にかけるところがあるし、あまり気を使わせたくなかった。
 「─ちょっとね、考え事してて」
 「考え事?」
 「うん。大した事ないから、そんなに気にしなくて良いよ」
 ここで駄目押しに、いつもの笑みを浮かべる。
 するとアルルは、釈然としない顔をしながらも大人しく頷いてくれた。
 ルルーもそれ以上俺を追及する気はなかったのか、先頭のアルルを急かし始める。
 急かされ歩き出す先頭に、パーティはまた道を進み始めて、俺はほっと息を吐いた。
 けれど──
 「…?」
 「…」
 シェゾだけが、最後まで俺を射るような目で見ていた。
 
 それは威嚇か?牽制か?
 それとも、俺に対して何か不満でもあるのか…?

 …訊いても答が返る保証はないな。
 俺はそこでそれを考えるのをやめた。


 そしてまた、道なりに歩きながら次の街へと向かう。
 珍しく会話のあるシェゾとアルルの背をまた眺めつつ、俺はすっかり口を閉ざしていた。
 「…随分静かねぇ」
 そこへ、退屈したのかルルーが俺の頭をくしゃくしゃとかき混ぜながら隣に並ぶ。
 まだ願掛けをしてるのか…?
 「また、願掛けかい?」
 「悪い?」
 「…そんなご利益無いと思うけどね」
 「あら。鰯の頭も信心からっていうじゃない」
 「俺の頭は鰯?」
 流石に酷いな、と苦笑して見せると、ルルーはやや慌てたように手を振って否定する。
 「あ、そうじゃないのよ。ようは何でも信じることが大事って意味」
 「そうか。…ってことは、本気で信じてやってる?」
 未だに髪を掻き混ぜられながら俺はルルーの顔を見やった。
 ルルーはふん、と誇らしげとも言える顔で胸を張って笑う。
 「当たり前でしょ?サタン様との輝かしい未来のためならなんだって利用するわよ」
 「俺の頭も…?」
 「そういうこと」
 苦笑交じりの溜息をつけば、文句あるのと睨まれて、俺は横に首を振った。
 「…ていうかさっきっから妙な顔してるわね」
 「?」
 「アンタよアンタ」
 「俺…?」
 顔に出てたのか。
 俺は取り繕おうと笑顔を表に出す。
 「ずっと俺の顔見てたのか?ルルー」
 「…誤解するんじゃないわよ?わたくしが心を捧げているのは─」
 「サタンだろ。そんなに過剰反応しなくてもわかってるよ」
 「解ってればいいのよ。で、話を戻すけど。…なに?ヤキモチでも焼いてるの?」
 にやにやとした笑みを浮かべるルルーに、思わず眉根が寄る。
 ヤキモチ?
 それはいわゆる嫉妬の事か。
 「─どうして俺が─」
 「解ってる解ってる。皆まで言わなくてもいいのよ、意地っ張りなアンタのことだから正直に言わないのは解ってるわ」
 何か意を得たといわんばかりのルルー。
 解ってないじゃないか…。
 どうして俺があの二人に嫉妬しなければいけないんだ?

 ─けれど。
 言われて見れば確かにあれは嫉妬に近い感情かもしれない。

 「あのヘンタイとなら十分アンタの方が有利よ。真面目だし、色々とアイツよりいい面多いしね」
 「だから、違うって」
 嫌にすんなり出た否定。
 俺は、自分でも驚いていた。
 「…もう、この話は良いだろ?カンベンしてくれよ」
 「…あらそ?残念ね〜」
 「ルルー…、からかって遊んで無いか?」
 「そ、そんな事ないわよ、ぜ〜んぜん?」
 「ルルー…」
 重たい溜息をつくと、ルルーは少しバツの悪そうな笑顔を浮かべながら前を歩く二人の方へ歩み寄った。
 三人で地図を覗き込んでいるということは、道が分かれてるんだろうか。
 俺は周囲を見回した後、自分も会話に参加すべくその輪に混ざった。


 ─そう、違う。
 俺の感じていたもどかしい感情は、シェゾでなく─
 誰でもない、アルルに対しての感情だった。
 それに気付いたのは今。

 そして今も。
 シェゾの隣で笑う少女に、イラだった感情を覚えるのは現実。
 




 ─この感情は嫉妬?





NEXT..........

 

 管理人より>ラグ→←シェ←アル連載中編。
 大分遅くなりましたorz


 PCUP=2005年8月25日


 
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