神様なんていないから
身近な何かに利益を求めたい。
…それは分かってるけど。
願い事
結局、今日は街までたどり着けなかった俺達は野宿することになった。
ルルーは散々嫌がっていたけれど、今はもう諦めたらしく大人しく焚き火に当たっている。
「…な、なぁアルル」
それを見ながら─俺は、さっきから俺の頭を撫でているアルルに声をかけた。
すると、『なぁに?』という声が降ってきて、撫でる手が止まった。
「さっきから…何で俺の頭を撫でてるんだい…?」
「あ、うん…。…えっとねー、ラグナスの頭って、何か撫でたくなるから♪」
そんな答えの後、また手がくしゃくしゃと撫でる動きを再開した。
気恥ずかしくて思わず逃げようとするとダメだというようにもう片方のアルルの手が俺の肩を掴んだ。
…参ったな…。
「アルル…、あの、何か落ち着かないし」
「まぁまぁ♪」
「…恥ずかしいしさ」
「いいからいいから」
「……髪くしゃくしゃになっちゃうんだけど」
「ラグナスの頭撫でてると何かご利益ありそうなんだもん」
……どういう意味なんだそれは…?
目を点にしていると、自分の台詞に何かはっとするものがあったのかアルルはあっと声を上げた。
訝しんで見上げる俺に、アルルは何かに瞳を輝かせていた。
「ねえねえ、何か願い事とかしたら叶うかなぁ?」
「い、いや、…どうだろう…な?」
叶うわけないと思いながら、逆らいがたいアルルの笑顔に俺は言葉を濁していた。
と言うか、何時から俺の頭にはそんなご利益が宿ったのだろうか…。
俺の、否定でも肯定でもない言葉をどう感じたのか、アルルは暫し考えるような素振りをした後また撫でを再開した。
いい加減、避けるのも諭すのも無駄と悟った俺はそのまま大人しくする事にする。
すると、アルルの口が何か懸命に何かを呟いているのに気付いた。
…まさか本当に願い事をかけてるんじゃ……。
「アルル…もしかして本当に願い事かけてる?」
苦笑して訊くと、照れたようなアルルが頷いたのが分かった。
「う、うん…。えへへ……」
「何を御願いしてるんだい?」
「ぇっ…。…あ、あははは…な、何でしょうー?」
「んー、一流の魔導師になれますように、とか?」
「ちょっと、違うかなあ…」
「じゃあ、無事魔導学校につけますようにとか」
「それも、違うの」
「…?」
「…ナイショ」
クス、と恥ずかしそうに笑う、少女の顔。
その視線が─焚き火の向こうにいるシェゾに向いていた。
それで、ああ、と心の中何かが弾けたみたいに答えが浮かんだ。
恋の成就。
少女らしい可愛い願い。
相手は、その視線の先の、彼。
「…そうか。…叶うといいね…」
それでも、俺はあえてそれを口に出さなかった。
アルルがあまりにも、愛しそうな顔でシェゾを見るから。
「うん!有難う、ラグナス!」
「…あぁ」
眩しいな、と、思った。本当に嬉しそうなアルルの顔が。
この時は、俺を撫でる事でその願いが叶うというなら、叶うと良いと思えた。
本当に、そう、「思っていた」。
「あらなぁにー?ラグナスの頭撫でると願いが叶うの?」
「え、あ…」
「だと良いなー、と思って、今御願いしてるの!」
焚き火から、俺たちへ視線を変えたルルーが、からかうように問いかける。
それに答えたアルルの言葉に、ルルーはにっこりと笑った。
「へぇ…じゃあわたくしも良いかしら」
「どぞどぞ」
…って!?
「あ、アルル…!?ちょっと待ってくれ!」
「まぁまぁ良いじゃない。減るもんじゃないしー、ね?」
「そうよラグナス。男がケチケチしてるともてないわよ!?」
「う…っ」
「と、言うわけでわたくしも遠慮なく……」
勢いに押されて押し黙ってしまった俺の頭に、アルルだけでなくルルーの手までもが伸びて来る。
仕方ないかと苦笑を零して目を閉じると──
「…サタン様に似合う良い女になれますようにサタン様に似合う良い女になれますようにサタン様に似合う良い女になれますように………」
「ぅあああああッ!?」
呪詛のように呟き続かれる言葉と共に、がしがしと乱暴に髪を撫でられた。
「ちょ、ちょっとルルー!そ、それじゃあラグナスがぁ!」
「うるっさいわねアンタは黙ってなさい!こっちは真剣なんだから!」
「そんなに、勢い付けられると頭はげそうなんだけど…ッ」
「はげなさいよ、わたくしの為にッ!」
「む、無茶だぁぁあっ…!」
悲鳴じみた俺の声が上がると、焚き火の向こうのシェゾが、微かに笑っていた気がした。
NEXT..........
管理人より>ラグ→←シェ←アル連載開始。
さぁてどうなるどうなる。というかちゃんと完結できるのか俺。(爆)
PCUP=2004年9月25日
モドル