A HAPPY NEW YEAR!




 某所某アパート。(笑)の、ある一室。─表札は、『ラグナス・ビシャシ シェゾ・ウィグィィ』

 「まだ?」
 盆と正月がいっぺんに来たような顔で、ラグナスがコタツに入っていた。
 台所では規則正しい包丁の音がしていたが、ラグナスの言葉でそれが中断される。
 「うるせぇ。もう少しだから静かにしてろ。腹が減ったんならみかんでも食え。」
 暖簾をかきあげて出てきたのは正月から不機嫌そうな顔をしたシェゾ。
 コタツの上にあるみかんを指して言うシェゾに、ラグナスはえ〜、とだらしなく笑った。
 「最初に入れるのはシェゾの手料理がいいなー」
 「…死ねアホ」
 「ひど」
 「黙れ。」
 そう告げてさっさとシェゾは台所に引っ込んでしまった。ラグナスはそれに少々むっとしたが、何を思ったかみかんを取って、昨日から出しっぱなしだったビール缶の上に乗せた。
 「アルミ缶の上にあるみかん〜」
 それは台所まで聞こえたらしく、シェゾは大きな溜息をついたが、すぐさま立ち直って包丁を動かし始めた。鼻歌が混じるのは調子がいい証拠だろう。
 曲は大体古いものが多い。付き合いの長いラグナスですら彼のセレクトには付いていけない。古くて。
 「早くねー」
 実に男らしくないことを言いながら、ラグナスはみかんを元の場所へ戻した。


◆◆◆


 ごとん、と、暇そうにみかんを眺めていたラグナスの前に、重箱が置かれる。
 「ほら、出来た。」
 「おー!」
 いそいそと身体を起こすラグナスに箸を手渡し、シェゾも腰を下ろした。
 「…」
 ラグナスは、そのシェゾのほうを見てにやりとする。
 正月から黒い服なのは、まあ、シェゾだからいいとして。彼は今エプロンを身につけていた。
 流石にフリルではなくシンプルなデザインの淡いピンク色のエプロン。
 『裸エプロンとか、良いかもしれない』とか、脳裏に思い描く。
 …かなり似合いそうだ。思わずにやけると、右頬に拳を突きつけられた。
 「いたひよ…。何ひゅんの」
 「いや。何か邪念を感じてな。」
 闇の魔導師が邪念と感じるなんて、もう勇者としてどうなんだろう。
 「とっとと食え」
 「ひゃい」
 頬に拳をぐりぐりと急かすようにされ、ラグナスはくぐもった声で返事をする。シェゾはそれを確認した後拳を離し、自分の箸を手に取った。
 『いただきます』
 キレイに声をハモらせて、それぞれ好きなものを取る。
 「シェゾー」
 「あ?」
 金時を摘んでいたラグナスが、ふと思いついたように呼ぶと、シェゾは里芋をかじりながら応えた。
 「明けましてあめでとう」
 「おう。おめでとう」
 「今年も宜しくな」
 「ああ。」
 素っ気無いやり取りだが、ラグナスは十分だ、と微笑んだ。シェゾのことだから、『だからなんだ』と返されるかと思ったのだ。
 「…はぁ〜」
 つい満腹溜息をついて、ラグナスはにやける口元を隠す。
 「…何溜息ついてんだ?」
 「いやなんかもう。俺って幸せ者だね、とか」
 「は?」
 「だってさー?正月からシェゾと一緒に二人きりで御節つついてるんだよ?手作りの」
 『これを幸せといわずしてなんという』と、ラグナスは本当に幸せそうな表情でシェゾに笑いかけた。
 「ビジュアル的には暑苦しいがな」
 「あ〜、そりゃないでしょ〜」
 「…もう、いいから黙って食え。」
 シェゾはそんな笑みを向けてくるラグナスから照れたように視線を外して毒づいた。


 ◆◆◆


 「そういえばさー」
 食後のまったりした雰囲気の中、ラグナスがふと口を開く。
 「あの二人元気かなー」
 「?」
 あの二人、が分からず眉を寄せたシェゾに、ラグナスはほら、と記憶の刺激を促す。
 「クリスマスのさ、バス停で会った。地味なのと医大生」
 失礼な物言いだが、シェゾには伝わり、思い出させるのに成功した。ああ、とシェゾは相槌を打つ。
 「あれか」
 「そ。どこに住んでるんだろう。バスだからそんな遠くないよな」
 「気になるのか?」
 「ヤキモチ?」
 「違う。」
 「…。」
 即答されて少しブルーになるが、すぐに立ち直る。
 「…気になるって言うか。また会えないかなー、なんて」
 「気になってんじゃねえか」
 「うーんー…」
 ぐだぐだと机に突っ伏すラグナスが見てないのを分かっていて、シェゾは柔らかく笑った。
 それは、出来の悪い弟を見ているような、それに近いものがあった。
 「今度、あの辺行ってみるか」
 「?」
 「会えっかも知れねーぜ?」
 ラグナスがこっちを向くときには嘲笑のような笑みに変えて。シェゾは『あいつも言ってただろう』と続けた。
 「…そうか。そうだな」
 「そういうことだ。─食わねーんならそれ片付けるぞ」
 言いながら既にその手はラグナスの皿を片付けていて、シェゾはとっとと台所に消えてしまった。
 あ、と思ったときには既にシェゾは見えなくなっていてラグナスは溜息をつく。
 「…分かってるのかなー。シェゾ」

 それってデートだよな?

 ラグナスは、天然な闇の魔導師に照れたような嬉しそうな笑みを浮かべた。
 台所からは、朝食前とは違う鼻歌が流れていた。


■■■

 
 明けましてオメデトウ。
 おめでとう御座います。
 …めでたいな。
 そっすね。


 そんな会話が交わされるのは、もう少し先。


■■■


 正月からデートの約束を交わすバカップルと。
 そのほか全ての人々へ。

 
 A HAPPY NEW YEAR !
 今年が、貴方達にとって良い年でありますように。









 **END**

 管理人より>新年明けましてネタは…おいパラレルかよ!(突っ込み)
 えっと、本当はあるBL18禁ゲームとのコラボ小説だったのですが。
 そのBLゲームの部分のみを削除させて頂いております。
 あと、読んでいただければ解るとおり実は前編があったりして…(死)


 PCUP=2005年1月1日



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