Q.無人島に、一つだけ何かを持っていくとしたら、あなたは何を持っていきますか?
「…ハァ?」
Dシェゾが、突然言い出したそれに、シェゾは素っ頓狂な声を上げて眉をひそめた。
特に用事も無く、自宅のソファでのんびりとした時間を過ごしていた時のことだった。
「なんだ、急に」
ベッドソファからシェゾは少し身を起こして、もう一つのソファに座っているDシェゾを奇妙なものを見るような目で見る。
Dシェゾはその様子を気にも留めていないのか、平然と『何を持っていく?』と繰り返した。
だから、何なんだよ。
質問に答えないDシェゾに、シェゾはむっとするが、待ってみてもDシェゾは答えになるような言葉を発しない。
結局、真意を測ることを諦めて、溜息をついて少し考える。
アレコレと思い浮かべてみるが、いまいちピンとくるものは無い。
シェゾは珍しく唸って考え込んだ。真剣に考えると結構出てこないもので、シェゾがやっとそれらしい答えを口に出来たのは、それから五分ほど過ぎたときだった。
「……闇の剣…か、もしくはお前…とか」
「…ほぅ?」
Dシェゾが珍しく驚いたように表情を変えた。
よもや自分の名が出るとは思っていなかったのか、それとも『モノ』と聞かれて仮にも『ヒト』である自分が上がったのに驚いたのか。
いずれにしても、シェゾは久しく感情の起伏のあまり無いこの男を表情が変わるほど驚かせたのだった。
「理由はなんだ?」
Dシェゾは手にした本からすっかり視線を放して、シェゾに向けた。視線の先のシェゾは、またふられた質問にうっとおしげにやや寝癖気味の銀髪をかき乱し、言いにくさを誤魔化しているような口調で素直に答えた。
「あー…。なんつーか。
一応仮にも『お前』は『俺』な訳だし、いた方が脱出法の考えとかも纏まりそうだし。…あとは、何となく、だな。話し相手なら闇の剣で十分だからな」
「…」
思っても見なかった返答に、Dシェゾは驚きに見開いた目が元に戻らない。
シェゾが、『だから何だなんだ?』と視線で窺ってきたところで、ようやくDシェゾは落ち着きを取り戻して、いつものようにシェゾと同じ顔で、なのに違う笑顔を浮かべた。
「お前は…」
「…はん?」
「分かって言ってるんじゃ、無いんだろうな」
「……はぁ?」
『そうかそうか』と、妙に楽しそうな様子のDシェゾに、シェゾは今まで深かった眉間の皺を更に深くした。
自分のあずかり知れぬところで、何かしら自分について納得されるのは、はっきり言って気色悪くて嫌いだ。
流石に苛付いて、シェゾは笑われたことに対する報復、とでも言うように再びソファに身を沈めて黙り込んだ。
だが、それすら今のDシェゾには微笑みの対象になるらしく、Dシェゾはくつくつと喉を愉快気に鳴らして言う。
「質問の意味を知りたくないのか?」
「…」
シェゾが、割と知的好奇心が強いことを彼は知っている。
こうして問えば、よほどへそを曲げていない限りは渋々だが答えを知りたがる。
案の定、シェゾはすっきりとしない顔でソファから起き上がり、笑うDシェゾを睨んで答えを急かした。
思ったとおりの反応をするオリジナルに、ドッペルは手にした本をひらひらと振って見せた。
表紙にはえらくファンシーな文字で『自分の知らないあなたに会える!─深層心理テスト─』と記してある。
シェゾはあらかさまに表情を崩した。
「心理テストかよ……。しかも女向けじゃねーか」
一気に興味をなくしたのか、シェゾの身体がソファに倒れこむと、Dシェゾはまだ笑っていた。
「…なんだよ?」
いい加減にしろ、とも意味を込めて目をやれば、Dシェゾはやはり笑ったまま問うた。
「診断結果を知りたくはないのか?残念だな?」
「……。一応聞いてやる。だからさっさと言え」
くだらない、とは思うものの、Dシェゾを驚かせた返答の含んでいた意味は知りたい。
しかしもう起き上がるのは面倒くさくて、シェゾはソファに突っ伏したままで促した。
Dシェゾは、そんなシェゾの姿をたっぷりと見つめたまま診断結果を唇にのせた。
「これはな、シェゾ」
「あー」
「返答者が、一番心に留めているものだ」
「ふぅん…………。…?
…なっ!?」
数秒遅れで、シェゾはその言葉を理解したらしい。
かっと顔を赤らめて、弾けるようにDシェゾを見やった。
「なんだよ、それ!?」
「何だも何も、そういう意味だ」
しらっと答えるDシェゾに、シェゾは真っ赤なまま何かを言いた気に口をぱくぱくさせる。
そしてそれからやっと、何故、めったに表情を出さないDシェゾがあのように驚いたり、笑ったりして見せたのかの理由にたどり着いた。
つまり、Dシェゾは。
「って、てめぇ…!!知ってて聞きやがったな!?」
耳まで赤くなるシェゾに、Dシェゾはとうとう吹き出して笑い、最終的には目の端に涙を浮かべるほど笑った。
当然シェゾは、羞恥心に煽られ怒り心頭。
その上更に、涙を浮かべるほど笑っているDシェゾの姿に引火され。
「…っのやろ!」
未だに肩を震わせているDシェゾに一矢報いようと拳を握って殴りかかるが、顔に届くより早く、その拳はDシェゾ自身によって止められてしまう。
それからあっという間に引き寄せられ、背中から抱きしめられてしまった。
どさりとDシェゾの膝の上に乗せられ、シェゾは更に真っ赤になって暴れだす。
「ッは、放せ〜〜っ!!!!」
腹式呼吸でセリフを吐き出して、赤い顔を見られないよう暴れていると、ふと耳元にDシェゾの唇が寄って、呟いた。
「俺もだ」
「はな、……あ?」
微かだった声に、聞き返す。Dシェゾは素直に従い、繰り返した。
「…俺も、『お前』を『答』にした」
お互い様だろう?
と、Dシェゾは掠れた声でシェゾの耳へそれを吹き込んだ。
だがその『お互い様』は、同じ事であることで羞恥をかき消すわけではない。逆に煽るものだった。
シェゾはあまりのことに、生まれて初めて『羞恥による悶絶』を体感し、哀れ首元まで赤く染め上げてDシェゾの膝の上に収まった。
─素直に答えるんじゃなかった!
繰り返される心の中の言葉はそれだけ。
人はそれを『後悔』という。
Dシェゾは、真っ赤なシェゾの耳に触れるだけのキスをして羞恥に熱くなった身体をきつく抱きしめた。
それは特に用事も無い平和な午後のことでした。
Q.無人島に一つだけ何かを持っていくとしたら、あなたは何を持っていきますか?
A.最愛の人を*END*管理人より>〜天蠍宮式瀧様よりリクエスト〜
式瀧様>はい。Dシェシェ微甘です!…てか本人(作者)甘いの苦手だったりします実は!(笑)だから『微』どころでは無いかもしれませんすみません!!(苦笑)
PCUP=2004年4月5日
モドル