舞台はサタンの塔・最上階。サタンの部屋。
今日は珍しくいつものメンバー(アルル・シェゾ・ルルー・ラグナス・サタン)が揃ってわいわいと騒いでいた。
何でも、今日は「
カーバンクルちゃんと初めてお散歩した日☆」記念という、
サタンにとってはとてもめでたい日らしい。
そんな訳で
(それぞれ色々なもので釣られて)お呼ばれされたアルル達は、そんな
突っ込みどころ満載記念日に突っ込むこともせず素直に飲めや歌えやの大宴会を喜んだ。
「サタン様…今日はこのような席にお招き頂き有難うございますv」
ちゃっかりサタンの隣に陣取って上品に軽いアルコールを呷っていたルルーは、実に楽しげなサタンに微笑みかける。
この席に呼ばれたことが栄誉な事かどうかはともかく、ルルーにとっては「サタンにお呼ばれ」という事実には変わりない。それが嬉しいらしい。
するとサタンは「うむ」と大仰に頷いて見せた後、本日何度目かになるセリフを吐く。
「何せ今日は
私とカーバンクルちゃんが初めてお散歩した日☆だからなー!祝わずにいられんだろう!」
「ええ本当に…v」
「さぁさぁ飲めっ。今日は無礼講なのだー!」
開始30分にして既に出来上がっている様子の魔王。
「無礼講も何もいつもと変わんねーだろ」
それにぼそりと反論したのは、サタンの向かい側でスルメを肴に強いアルコールをかぱかぱ飲んでいるシェゾだった。
「まあ、そうだね」
同意し、苦笑したのは空の酒瓶をドンドン増やすシェゾの隣で未だに酒の注がれたグラスを乾かせていないラグナス。
こちらはやはり、ルルーほどは
カーバンクルちゃんと初めてお散歩した日☆記念にはあまり乗り気ではないが、あまりヘタなことを言って茶を濁すようなことはするつもりはないようだ。
サタンやルルー達と違って、安定した生活があるわけではない彼等にとってただ飯は有難い事だし。
最近収入も無く、
台所事情が大変なことであった二人にしてみればこの宴会は渡りに船であった。
「いつだって
誰もサタンに礼なんか尽くしてないよね、カー君♪」
「ぐー♪」
これは、並んだ料理を遠慮なく頂いているアルルとカーバンクル。
割とあっさり酷い事を言いつつも、その可愛らしいとさえ言えるほどの笑みは
ちっとも変わらない。
ずるり、と体勢を崩すサタンの隣のルルーがきっとアルルを睨む。
「失礼ね!あんた達なんかと一緒にしないでちょうだい!私はいつだってサタン様の事をお慕い申し上げて……キャー!ルルーってば何言ってるのイヤーッ!v」
が、しかし、自分の発言にエキサイトして照れ隠しかサタンの背中をバンバンとそれはもう
力強くブッ叩き始める。
「っる、るるーっ!っちょ、痛、痛いぞ!」
「やぁ〜ん、ルルー恥ずかしいー!v」
ヴォごびたん。
『………』
アルル、シェゾ、ラグナスの視線がそれぞれ同じような動きを辿る。
それはルルーの
正拳で席から吹っ飛ばされていったサタンの行く末を追っていったものだった。
「……はっ!やだ私ったら取り乱してしまって…v って、あら?ちょっと、サタン様は何処よ?」
やっと正気に戻ったルルーに、全員が壁にめり込んでいる哀れな魔王を指差す。
当然、『
誰がこんなことを』と騒ぎ出すルルーに、三人はただ黙って目をそらした。
カーバンクルの『
愛くるしいおみ足で背中踏み踏み』効果で脅威のスピードで復活したサタンを含め、更に酒は進み宴会も盛り上がってくる。
堅物で通っているラグナスの頬も少し酒の朱に染まって、普段以上に喋りだしてきた。
「そういえばこういう席って、ゲームが付き物だよな」
「あぁ、そういえばそうなのだ」
「王様ゲームとか、ポッキーゲームとか」
続いてアルルが、無邪気な顔でカーバンクルの口にマシュマロを大量に詰め込んで遊びながら例を挙げる。
カーバンクルの苦しげな『ぐぅ〜、ぐぅ〜っ』という声をバックグラウンドにシェゾがにやりと笑った。
「王様ゲームか、悪くねえ」
「面白いよね♪」
メンバー内で一人王様を決め、その王様の命令には
絶対服従、さもなければ
罰ゲームという
素晴らしいほど問答無用のレクリエーション。
そんな美味しくも楽しいゲームを、このメンバーが
拒むはずがない。
「じゃあ早速やるのだ〜♪」
案の定ノリノリで、サタンが王様ゲーム用に割り箸でクジを作り出す。
そんな時こそ魔力使ってちゃっちゃと作っちゃえば良いのに、と突っ込む者は最早そこには存在していなかった。
さて、そんな訳で始まった王様ゲーム。
この時点では誰もが、予想していなかった。
この場が、惨劇の舞台となるなどという事は。
「それじゃあ引くのだ〜」
「言われなくても…」
「♪」
「王様ゲームって始めてやるなあ」
「よっぽど今までの人生潤い無かったんだねv」
じゃんけんで公正に決めた順々にくじを引いて行く。(料理を食べるので忙しいカーバンクルは除外)
「先に『○王』と書いてあるくじを引いたやつが王様なのだーって、私か」
ふりふりと割り箸を振ってサタンが自分を箸を見やって目を丸くした。
その手にある割り箸には『○王』とある。
「あ、サタンが王様〜♪」
「あんまり変な命令すんじゃねーぞ。
フッ飛ばすからな」
「たかがゲームで大人気ない……」
そういわれても仕方ない人物なのだからしょうがない。
「…さて、と。じゃあ……」
ちらり、とメンバーの顔に視線走らせ、サタンは暫し思案するように目を閉じた。
それから黙考している間に、ふと先日偶然手に入れたあるものの事を思い出し、にんまりと口の端を釣り上げる。
確立は1/2。サタンはすぅっと息を吸って『命令』を口にした。
「三番はこの
ミニスカぴんくのナース服を
このゲームが終るまで着用するのだッ」
嗚呼、猫耳・セーラー服に次ぐ
男の浪漫。
サタンは惜し気なくそれを実行しようと言うのだ。実に
漢らしいといえよう。
王様ゲームというレクリエーションを通してならほぼ確実にその浪漫は実現する。
しかし、それを実行するには
彼は運が無さすぎた。
「さぁ、三番は誰なのだ〜♪アルルか、ルルーか?」
「ううん、ボクじゃないよー」
「…私も違いますわね……残念ながら」
『……………………………。』
「ちょっと待て。
何でお前ら俺のほうを見る!?」
三つの視線が集中したシェゾは思わず大声を上げて腰を上げた。
この上なくガッカリしたように溜息を吐くサタンに続き、アルルが『何を今更』ときょとんとしてみせる。
「だって、こういう時って大体シェゾじゃない」
「言えてるわね」
「今回は違う!俺じゃないッ」
言って、『四』と書かれた割り箸をこれが証拠だと見せ付けるシェゾに三人は目を丸くした。
「じゃあ……」
「………………………………………………俺」
そして、今にも消え入りそうな声で応えたのは、今まで(サタンが命令を言い出すまで)和やかに事の成り行きを見守っていたラグナスだった。
王様ゲームの王様の命令は絶対である。例えナース服を男が着る羽目になっても、それが撤回されることは無い。
「…よく似合ってるわよ」
「ラグナス可愛い〜」
「…嬉しくないよ」
今にも噴出しそうな顔をしたルルーの言葉の先には、律儀にも
ミニスカぴんくのナース服を着たラグナス・ビシャシがハラハラ涙を零して佇んでいたりする。
「…
ラグナースってトコロか」
「……まあ悪くないかもしれないのだ」
「
ぅ、ぅわぁぁあぁぁん!ジロジロ見るなヘンタイーーーー!」
ミニスカの裾を必死に引っ張って、足を隠そうとしているその仕草がまた
ナース服だと可愛く見えたりするから不思議なものである。
着ているのは男だが。
「まあそう泣くな。しっかし…ホントに着替えたんだな」
元の席に着いたラグナース(笑)に、シェゾは慰めるような言葉をかけてその姿を見やる。
ラグナスは座った際にスカートの中が見えないようにしっかり押さえながら頷いて、溜息を吐く。
「じゃ、次々〜♪」
複雑そうなラグナスを横目に、アルルがクジを回収して混ぜ始めた。
この後の事はまた同じことの繰り返しなので省くとして、次の王様は……。
「俺だな」
シェゾが割り箸を見てにやりとしてみせた。その笑みに何か嫌な予感を感じるなという方がどうかしている。
「どうせお前が欲しいとか言うでしょう。この
ヘンタイ魔導師」
「あははは、シェゾ単純ー」
「喧しい人の話は最後まで聞け」
「えぇ?シェゾは
ヘンタイさんでしょ?」
「
俺はヘンタイじゃないと何度言ったら分かるんだ小娘。」
「説得力無いぞ、ヘンタイ魔導師。というか私の后に触るな」
アルルの胸倉を掴み上げて凄むシェゾに、
初っ端からナース服を着せるという偉業を成し遂げたサタンが言い放つ。
「いや、君に言われたくは無いと思うなー、シェゾも」
「うぅっ…さすが、我が后は手厳し「
てゆーかボクは君の奥さんじゃないから」
すぱっと効果音が聞こえそうなほどはっきりとアルルは言い切った。しかも人のセリフを遮って。
打ちひしがれるサタンをルルーが慰めているうちに、シェゾはちゃっちゃと『命令』を実行させることにする。
「あー、…一番…この宴会終わった後
俺に持ち帰られろ。」
その瞬間、時が止まった。
あろう事か、カーバンクルの時間まで止めたその一言は、もう一度繰り返される。
「…俺に持ちかえ「
二度言わんでいい。」
真っ先に息を吹き返したのはやはりルルーだった。ルルーはアルルと同じように言葉を遮って突っ込みながら更に畳み掛ける。
「てゆうか何よその命令!?大体アンタ、お持ち帰りして何する気なのよ!」
「うるせえな。俺が王様だろ?
なら俺がルールだ。」
「…今アンタが此処にいることを悔やむわ……」
「今更だな」
フフンっ、と鼻を鳴らす闇の魔導師に、ルルーはメンバーを見やった。
「…で、一番って誰よ?言っとくけどサタン様だったら
コイツ殴って無効にするから」
「いや、その心配はない」
『?』
「…」
きょとんとするアルルとルルーに、シェゾはまたにやりとした。
「なあ、ラグナス?」
肩をぽんと叩かれたラグナスの持っているクジにはしっかりと
『一』の文字が。
「……シェゾ」
「うん?」
「……まさか……お前……」
「…♪何のことだかさっぱり分からんな…」
……闇の魔導師様はどうやら目敏く彼のクジを盗み見ていたらしい。
「……うわぁぁぁぁあああああ……」
「…ハイハイ。ヘンタイは置いといて次ぎ行きましょう次。」
泣き崩れるラグナスとは対照的に満足気なシェゾを差し置き、またアルルはちゃかちゃかとクジを回収しだす。
ようやくサタンが硬直から復帰した時には既に三回目のくじ引きが行われていた。
「次、王様誰なのだ?」
ふりふりと割り箸を振って、サタンがスルメをぱくつきながら問うと、アルルが「はーい」と両手を挙げる。
「ボクだよ〜v」
「あら…やっとまともな王様ゲームになりそうね」
最もなルルーのセリフにカーバンクルも分かっているのかいないのかウンウンと頷く。
「さぁ、女王アルルよどんどん命令するといいのだ♪」
「えっと…じゃぁ〜…。…サタンって何番?」
ニッコリしながらの問いかけに、サタンは正直に『五番だが』と答える。
すると、アルルは笑みをそのままに言い放った。
「じゃあ、五番の人。
簀巻きにされて川に流されて☆」
…天使のような、悪魔の微笑だった。
─秋の川 簀巻き投げ込む 水の音。
詠み人知らず。
それ以来、サタンが宴会を開いた時に王様ゲームをすることはなくなった。
**ねんど。**
管理人より>やっと終った;(爆)
そのうち裏がつきます(ぇえ)
PCUP=2004年10月20日
モドル