「はくしゅん!」

 「…8度ぴったり。…風邪だな」
 「ううっ……失態ですわ〜…」
 ベッドに入ったウィッチの横で、体温計を持ったシェゾが淡々として告げた。
 ウィッチは13歳の乙女らしからぬ鼻啜り音(ずるずる)を立てながら掠れた声でぼやく。
 「夏風邪…か」
 突然、シェゾが遠い目をする。
 「夏風邪がどうしましたの」
 「…馬鹿が引くんだってよ」
 ……間。
 「………な、何ですって!?さてはアナタ、私を馬鹿だと仰りたいんですの!」
 「反応が遅れたな」
 激昂するウィッチに、シェゾは全く取り合わない。
 「アナタねえっ……!!…!」
 だが、次の瞬間、ウィッチは激昂した事を後悔する事になった。
 「ぅあぅぅう〜…」
 自分の少女特有の甲高い声が仇となったのだ。
 きんきんと頭に響き、また枕に顔を伏せる結果となる。
 シェゾはそれを見ながら、呆れとも苦笑とも取れる溜息を吐いて席を立つ。
 「ど、どこへ行くんですの」
 先程のように頭に響かぬよう声を抑えて問うと、シェゾは『ん』と振り向く。
 「病人は良いから寝てやがれ。そんで早く回復しろ。この恩は高ぇぞ」
 「な」
 矢継ぎ早に捲くし立て、自宅の前で倒れていたウィッチを不法侵入何のそのでベッドまで運んだ闇の魔導師は、そのままキッチンへと消えた。
 「…?」
 怪訝に見守る家主に、キッチンから調理器具使用許可を求める声がかかる。
 「あ、はい。どうぞお使いくださいな…?」
 「…後で使用料とか取らねえだろうな」
 「…取りませんわよ。アナタ私を何だと思ってますの…?」 
 「ガメツイ見習い魔女だ」
 「…酷いですわ」
 「事実だろ」
 「…」
 
 嗚呼、反論できない自分が哀しひ。

 それから暫くして、がたごととキッチンで調理の音がし始める。
 「……」
 

 せわしなく動く大きな背中を見ながら、

 たまには馬鹿になって夏風邪を引くのも良いかもしれない。

 と思った、見習い魔女13歳の夏。
 唯今、青春真っ盛り。





 ─*END*─



 管理人より>瑠璃様よりリクエスト
 えええっと…。(携帯HPの)キリバンを踏んでいただいてから随分経過してしまいました。
 本当に申し訳アリマセン;
 リクエストありがとうございました!

 一応シェウィ。…書いてる最中珍しく腕が乗った…(苦笑)
 UP=2004年7月12日

モドル


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