ソノ青イ目ニハ何ガ浮カブダロウ



 引き裂いて吹き出るものは赤い。
 青い瞳が見開かれる。
 
 それに浮かぶ感情が憎悪。
 ぞくりとした。
 堪らない昂揚感が背筋を駆ける。

 地べたに縫い付けて屈服させた時、あの瞳には何が浮かぶのだろう。

 見下ろされる怒りだろうか。
 敗北の悔しさだろうか。

 それともその先にあるものへの畏怖だろうか。


 「にやけてんじゃねェぞッ!!」
 男は咆哮とともに剣を振り上げる。
 にぶい音がして、自分の体からも吹き出たのも赤い血液。
 それに、相手は更に気分を害したように顔をしかめた。
 「モノ」と思って斬ったものに「ヒト」を感じたからだろうか。
 「─…紛いモンのくせに、ご立派に人間気取ってるつもりかよ」
 「…」
 『紛いモン』
 随分なお言葉である。
 だがまあ、いいだろう。的確と言えば的確だ。
 「フッ」
 ドッペルゲンガーは、小さく鼻先で笑う。
 そして、獣が鋭い牙で威嚇するかのように剣を構えたシェゾに、口の端から伝う血を舐めて笑みに歪ませてみせる。
 「当然だ、俺はお前だからな」
 「…」
 囁いた声に、短い舌打ちが返った。
 青い目には憎悪の他に、嫌悪と怒りが綯交ぜになったギラギラした殺気が浮かんでいる。
 シェゾは自分が憎くて気持ちが悪くて苛立つのだろう。
 「…どうした?子犬のように威嚇しているだけで俺に勝てるつもりでいるのか?」
 「ッ貴様ァ!!」
 光球が弾けてドッペルゲンガーを襲う。膝を崩したところへ、足元から凝縮された闇の刃が身体を貫く。
 それでも吹き出る血はシェゾと同じ赤色で、生々しく床に降り注いだ。
 「…」
 刃が食い込み、貫通した両腕から力が抜けて魔剣が落ちる。
 まるで空に磔られたようなその姿に、もう動けまいとシェゾが近寄った。
 すると、真っ赤に濡れている指先がビクリと動いてドッペルゲンガーの首が動く。
 何も映さない赤い目の下で、赤い口が笑っていた。
 赤まみれのその姿は醜悪なのに、見下ろせば優越感がこみ上げてくる。
 「見下ろされて嬉しいかよ?」
 笑った口元へ蔑めば、ドッペルゲンガーは咽喉を鳴らして応えた。
 「お前こそ、楽しそうじゃないか」
 「…」
 「本当なら、俺の方が見下ろすはずだったんだが」
 残念そうに言うが、にやけた顔は変わらない。
 それが気色悪いというように、シェゾはまた顔に嫌悪を表した。

 ─見下ろす目の中に混じる悦と嫌悪は、求めていた色とは違うものだがそれもいい。

 「子犬に噛殺されてるようじゃ、お前も大した事ないな」
 シェゾは皮肉気に言って剣を振り上げる。
 首を落とすつもりだ。
 「…なんとでも言うがいい」
 「俺が子犬なら、そこで吠えるお前は負け犬ってところか」
 愉しそうな感情が混じった声。
 …どうやら、ドッペルゲンガーはこのような部分まで似ていたらしい。
 ふ、と笑うつもりで口を歪める。
 だが、音になったのは掠れた声だけだった。

 「何か言いたい事があるなら聞いてやってもいいぜ」
 「残念だ」
 「へぇ?」
 「お前を地べたに縫い付けて屈服させたとき、お前がどんな顔をするのか非常に興味があったんだがな」
 「変態が…」
 「お前の言う台詞か?今の顔を拝ませてやりたいところだ」
 「もう黙れ」

 赤と青がかち合う。
 二人は互いを嘲笑った。
 シェゾは、その他に嫌悪を交えて。
 ドッペルゲンガーは、ただ、嘲笑だけで。

 「      」


 そして、断首の剣が落ちた。









 /*FIN*/


 あとがき>>Dシェシェダーク?(おい)
 7万記念リクモノです。Dシェとシェが多すぎてワロス。
 サド×サドみたいになりました。
 どっちかっていうとDの方にマゾッ気もありそうです。

 PCUP=2007/06/27



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