今日も今日とて晴天である。
夏らしい、ぎんぎんとした日差しを避けるようにしてシェゾは散歩していた。
こそこそと日陰に駆け込んでは汗を拭う。
その姿は
お前吸血鬼かと突っ込みを入れられても可笑しくないほど滑稽にも見えた。
シェゾは、日差しが嫌いである。
闇の魔導師だからとかではなく、強い日差しに当たるとあっという間に日に焼けて肌が真っ赤になるのだ。
その後、地獄のような苦痛─。
堪えられたものではない。
痛いことは出来る味わいたくない彼としては、手間を惜しんでいる場合ではないのだ。
そして、ようやく目的地…自宅に到着した途端である。
「お前が欲しい──ッ!!」
背後からそんな掛け声とともに誰かが自分に向かってくるのを感じて、シェゾは思わず身を翻してそれを避けた。
すると、目標を失ったその人物は勢いをそのままに、ビタン!と言う音を立てて大木と熱い抱擁を交わすことになった。
「…ひ、ひのい」
そいつは、鼻をぶつけたのか
鼻血をたらしながらシェゾを恨めしげに見やった。
己に向けられた鳶色の瞳が悲しそうに細まり、シェゾは─
「…。」
あっさり自宅の扉の向こうに消えた。
無視決定。
「し、シェゾ!そりゃないだろ!」
ばんばんと扉をノックと言うかブッ叩かれ、流石に無視するわけにもいかないかと
心の底から悔しげに舌打ちする。
「うるさい黙れそれ以上騒ぐなら今すぐ消えろ」
乱暴に扉を開いて、シェゾは抱き付き(いや未遂だったが)魔を睨む。
抱きつき魔─自称勇者のラグナスは、そう言い放ったシェゾに殺気を感じて口をつぐんだ。
「…で、何か用か」
「用って…別に…。無いけど」
「ほう。」
「単に散策してたらシェゾが見えたから
脊椎反射でつい」
「よし思い残したことは無いな?シネ。」
笑顔である。
この上ない笑顔で、シェゾはすっぱりと言い切った。
「……スイマセンまだ心残りあります死にたく無いです」
「…ちっ…」
「舌打ちしないで御願い」
「それは無理な御願いだな。かっこわらい。」
「
口で言うなよ(笑)をさ!いや普通に言われても困るけど!」
「うるさいなぁ」
相手にするのも面倒臭いというのを惜しげもなく晒すシェゾに、それでもラグナスは挫けない。
「そんなわけでシェゾ。
今日で1205637回目のチャレンジになるんだけど、俺とちょっと付き合ってみないか?
結婚を前提に」
「悪いが
セールスはお断りだ。」
「そんな事言わないで奥さん、今なら洗剤とチケットがって
違う!」
思わずイソイソと洗剤とチケットを
出し損ねたラグナスが慌てて否定すると、シェゾはぽんッと手を打った。
「ちり紙交換」
「いらなくなった古新聞ー古雑誌ー、
勇者一人と交換……ってだから違うってば」
「勇者って沢山いるんだな(しみじみ」
「いないよ!いない!俺だけだよー!
多分。」
「分からんぞ?ひょっとしたら
湧いて増えるかもしれん」
「
勇者はボーフラか何かなのか!?と言うか話そらさないでくれると有難いんだけどなあ」
話を逸らそうと思って頑張っていたのだが、あっさりラグナスが正気に戻ってしまったのでシェゾは舌をまいた。
「……つかしつこいんだよお前…。俺は何度も断るッつってるだろうが」
がりがりと頭を掻いてシェゾが嫌そうに言うと、ラグナスが恐らく彼の
本性を知らない人間なら一発で信頼してしまうであろう柔らかな
勇者スマイルを浮かべる。
「嫌よ嫌よも好きのうちvだろ」
「それは男の迷信だ」
徐に肩をぽんと掴んでくるラグナスに、シェゾは真顔で言い放つ。
ぺしりと手を払ってそれ以上を拒絶するつもりで背を向けた。
「とにかく、断る。誰がお前なんかと……」
付き合うか、と続く前に─
「嫌だと言われれば言われるほど男は
燃えるもの!─シェゾーッ!!」
「だーーーーーーーー!?」
がばぁぁっ!とラグナスが勢いをつけて押し倒してくる。
だがシェゾは─
「毎回毎回毎回毎回……
結局それか貴様は─────!!」
咄嗟の判断で受身を取り、素早く体勢を正してラグナスを空の彼方へ投げ飛ばした。
ヤ○ラもビックリの華麗な巴投げである。
「ひわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
尾を引く悲鳴を上げて、金色がきゅるきゅると弧を描いて飛んでいく。
シェゾはゆっくり起き上がって埃を叩き落しながら溜息を吐いた。
また明日も、きっとアイツは来るだろう。
明日という日が来る限り、絶対に。
うんざりした気分で、開けっ放しだった自宅の扉をくぐる。
明日と言う日は絶対来るのだ。 だからアイツも絶対来るのだ。
だって地面は今日も廻っているのだし。
きっと明日も暑いだろう。
…END…
管理人より>星干ひとで様よりリクエスト。
ギャグ片思い一方通行!さぁどうだ!(えばるな。)
…すいませんラグナス別人。つかある意味物凄くやばいヒトに。(ガクガク)
PCUP=2004年7月23日
モドル