ぼぉっと、空を見ていた。─退屈で、退屈で。しかし何をすることもなく。
 木陰から見える限りの空を、少々間抜け面で仰ぎながら咥えた煙草をふかした。
 『暇だ…』と、ほろ苦い煙を口に含んだまま内心で呟く。
 このうらうらとした春の日差しに、やる気が全て奪われてしまったかのようにも思えてきた。
 ─銀色の短い髪を撫でていく暖かい微風に眠気まで誘われて、いっそ、このまま身を任させてしまおうかと思考の端で考える。
 一旦そう思うと、瞬きが重くなって、意識が揺らぎ始めた。だが、それには逆らわず、むしろ自ら瞳を閉じ、木陰を作っている大木に身体を預ける。
 咥えた煙草の火を消したのを確認した後、それを指で弾いて捨てて、少し眠ることにした。

 ─すると。

 「あ!いた!…おいシェゾ!起きろよっ!」
 と、聞き慣れすぎて耳にタコが出来そうな声に、意識を引きずり戻された。
 『…いいところだったのに』シェゾは、心地良い睡魔を追い払ってくれた声に少々怒りを覚えながらうっとおしげに目を開ける。その視界に、鳶色の瞳を持った青年が入った。
 「…何の用だ…」
 きつく、青年を睨みつける。だがしかし、青年もまた不機嫌な顔でシェゾを見ているではないか。
 眉をひそめて、何か言いたげな青年の言葉を待つ。
「『何の用』…じゃないだろう?一緒に道具屋行こうって言ったじゃないか。…なのにこんな所で油売って〜…」
 「…ラグナス。お前一人で買い物くらい行けないのか」
 「…だって、シェゾと行きたかったん……。……ん?」
 「?」
 言いかけたそれを飲み込み、ラグナスが鼻を”くんくん”いわせ始めた。
何事かと言う表情になるシェゾに、ラグナスは少しずつシェゾに近寄り、そしてシェゾの銀髪に鼻を埋めて、呆れた顔になる。
 「煙草の匂いがする…。吸ってたな!?」
 「……。お前の鼻は犬並みか…」
 ”ぢろり。”と、ラグナスは、心底嫌そうな顔をしているシェゾを見据えた。
 「煙草は良くない。…ガンの元だぞ」
 「…関係ない。」
 「…俺が嫌なんだよ…」
 隣に座り、ラグナスが俯く。その黒い髪を風邪が撫でていくのを横目に見ながら、シェゾはまた、空へ視線を戻した。
 先程と全く変わらない状況になり、眠気が襲い掛かってくる。

 ─いや。少し違うか。
 隣に、ラグナスがいること。煙草を、吸っていない事。
 …別に、だからと言ってどうと言う事はないが。そもそも何故ラグナスは隣に座っているのか…。
 ─などと、とりとめもなく思考を廻らせていると、突然、右肩に重さを感じた。
 見やると、ラグナスが眠りこけている。まあ、この天気だ。シェゾですら眠気を誘われるのだから、当り前かもしれなかった。
 …それにしても素晴らしい寝つきの良さである。『ある意味』敬服してしまう。
 『眠ったなら文句は言うまい』と、シェゾは懐から新しい煙草を取り出し、再び喫煙を始めた。
 「─煙草。嫌だって言ったろ」
 「…起きてたのか…」
 しかし間髪入れず、瞳を閉じたままのラグナスが言ってきたので苦々しい気分になる。
 「…そんなに美味いものなのか?」
 眼だけシェゾに向けてラグナスは問うた。シェゾはひょいと眉を跳ね上げると、口から煙草を離す。
 「人それぞれだと思うが……。─……吸ってみるか?」
 「──ん」
 短い返事を返した彼に、シェゾはその口元へ咥えていた煙草を差し出した。
 ラグナスは当然のようにそれを唇に挟んで暫し紫煙を燻らせた後、長く煙を吐きながら シェゾへ煙草を返す。
 「…苦いし、なんか辛い。…返す。」
 「人から奪っておいて贅沢な…」
 それからまた直ぐに、ラグナスは寝息を立て始める。やはり寝つきがいい。それとも、単に寝不足なだけか。
 いずれれにせよ、これでもう文句は言ってこないだろう。懲りずに、また煙草を吸う。
 だが今度は本当に眠ってしまったようで、ラグナスは何も言わなかった。


 微かにラグナスの温もりの残る煙草をじっくり味わいながら空を見上げて、溜息混じりに煙を吐く。
 雲がゆっくり流れていくのを、何か妙な気分で見た。しかし、嫌な気分ではないので、まあいいかと口の端をほころばせる。





 いつの間にか、『退屈だ』という思考が消えていた。
 その代わりに、なんだかいい気持ちで軽く眼を閉じる。

 風がまた、その頬を撫でた。









魔導の世界は今日も平和である。





fin




管理人より>
 ゲブハぁッツ(吐血)
 何だ何だ何だ?これは何でしょうね?(訊くな!)
 と、とりあえず煙草吸うシェゾとかんせつちぅがしたかったんです。…それだけです。一応アレで落ちてるので小説置き場ゆき。

PCUP=2004年4月17日

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