シェゾは、掌に乗ったそれに呆然としていた。
 サイズは、前記の通り両掌サイズ。
 ぴんと立った獣の耳はふさふさの茶色。尻尾も同様に。
 そこまでなら、別に呆然としなかった。
 自分は確かに、『使い魔』を作るに当たって、なるべく犬系の、主人に忠実な資質を持ったものがいいと思い浮かべたし。
 だが。
 その基盤として人間を思い浮かべた覚えはさらさらない、はずだが……。
 「…あー……」
 ちょっと、瞬きをしてもう一回見直してもそれはやっぱり、その姿でそこにいる。
 シェゾはどうしたもんかと溜息を漏らした。
 ─シェゾの掌に乗っているのは、犬耳と尻尾を生やしたミニサイズなラグナスであった。





 偶然掘り出した魔導書の、ある一説にあった、『使い魔精製法』。
 それを、興味本位で試してみたのが、30分ちょい前。
 で、意識を自分の望む使い魔の姿に集中していたのが、25分前。
 して、出来上がった使い魔の姿に呆気に取られたのが15分前。
 …15分、彼は掌の上の使い魔─犬耳+尻尾のミニラグナスをただマヌケ面で見つめていたのだった。
 『……』
 そいつは、主人─シェゾ同様、シェゾのほうを見て動きもしない。
 いや、もしかしたら主人の命令をきちんと待っているのかもしれない。
 掌に座り込んだ鳶色の瞳が今か今かと見つめていた。
 それをよそに、シェゾは原因を考え始めていた。
 そしてそう大してかからぬうちに、何処か重要な場面で、このラグナスのことを頭の片隅にでも考えてしまったのか、とふと気付く。
 恐らく資質ではなく、造形の部分でであろう。
 資質まで彼に似なくてよかったと思う反面、何故よりにも寄って彼なのか悩むところである。
 常から魔力を狙っている相手─アルルや、いつか追い越してやると思っている、ある意味では目標のサタン等ならまだ納得がいくのだが。
 少なくとも、彼とはなんら関わり合いもないはずだし、そういえばここ最近顔すら見ていないではないか。
 それなのに思い浮かべるとは一体どんな気まぐれだったのやら。
 ─軽く溜息を吐いて、作ってしまったものはしょうがないかと諦めた。
 掌の(性別は不明だが一応ラグナスの恰好をしているので)彼を、近場の机の上に降ろしてやる。
 『…?』
 不思議気に見上げてくる彼に、何だか胸がざわめくのを感じながらまた一つ溜息を落とす。
 「…今は用事も無い(興味本位で作っただけだし)。それにお前はまだ作ったばかりだしな…。身体に慣れろ」
 『…』
 こくり、と素直に頷く。
 それから、二足歩行でちまちまと机の上を歩きまわる彼を暫く見ていたが…。
 何と言うか。
 いつの間にかほんわかと和んでいる自分がいたりして、慌てて正気に戻る、というのをシェゾは幾度か繰り返していた。
 何せ、(形はラグナスの癖に)何だかいちいち可愛いのだ。
 親心もあるのかもしれないが、興味深げに魔導書をめくろうとしている姿や、まだ身体になれない所為か躓いてふらついたりしている姿を見ていると、つい口元が笑ってしまう。
 尻尾や耳にも一応神経が通っているらしく、犬系を望んだゆえか感情がそちらに素直に出ている。
 自分を見ているシェゾの視線に気付いて、ぱたぱたと尻尾を振って近寄ってきたり、不審なものには耳を伏せて警戒したり。
 行動パターンに和みつつ、その姿を見て我に帰り、また行動パターンに和み…姿を見て我に…を、繰り返している間に、彼は大分身体に慣れたようだった。
 ついでに、外では夕日が沈んで行く途中であった。





 そして、はっきり正気に返ったときには周りはすっかり影を落とし、夕日の変わりに月がシェゾの家を照らしていた。





 「…」
 とりあえず、とシェゾは適当に見繕ってやったベッド─果物カゴにタオルなどを敷き詰めたもの─の中で安眠中の使い魔を見やる。
 「…どうしたもんか」
 腕を組んで、悩む。
 こんな姿の使い魔を使役していればおのずと主人であるシェゾの趣味が疑われるのは確実である。
 ゆえに、公に外で使うわけにもいかないだろう。
 しかしだからといって消すのも忍びない─まあ、この辺は情が移ったのかもしれないが─。
 「…ぬぅぅ」
 悩んだ声を上げても、目の前の使い魔が変わるわけでもこの状況を打破できるわけでもない。
 本日何度目かの深い溜息を付いて、シェゾはよく眠っている使い魔の頬を抓った。
 『〜…』
 嫌そうに顔を顰めて、小さな手でそれを払おうとする。
 とりあえず離してやると、ころりと寝返ってシェゾから顔を隠してしまった。
 その動きがまた可愛らしく、そしてそう思う自分をシェゾは、末期だなと呆れた。
 「……まぁ……ペットでも飼ったと思えばいいか」
 その上すっかり『失敗作』である使い魔を消す気が失せてしまい、自嘲して呟く。
 ラグナスの姿をしているとはいえ可愛いものは可愛いし、一匹くらいそういう愛玩用を傍に置いておいても…。
 「……愛玩?」
 それもどうだ?シェゾは自分で思い浮かべた単語に眉を顰める。
 しかしそれ以外に表現のしようが無い。
 だがやっぱり某勇者の形をしたものを愛玩と言う言葉で片付けるのは、流石に自分が危険に思えてくる。
 いや既にそのちまい勇者に和んでる時点でもうアウトなのだが。
 「疲れてるんだな…きっと」
 微かにそうであって欲しいと願いを込めて、シェゾはまた一人ごちる。
 生まれたての小さな使い魔は、そんな主人の葛藤もお構い無しに安らかな寝息を立てて熟睡していた。






 ─後に、その使い魔は「ちび」と名づけられた。





 
 終わっとこう?



 管理人より>読みきれませんね。読みきりのはずだったのに。
 つぅかそろそろ自分病気ですか?やばいですかコレは。
 ……カッコイイシェゾさんファンの皆様に申し訳なく思いつつ…(ゲフ)

 PCUP=2004年08月27日


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