例えば嘘を言ったとしても、きっとラグナスはいつもの笑みのまま解ったような顔をする。

 「お前なんか、大嫌いだ」

 例えばこんな嘘を言ったとしても。
 ラグナスは解った顔で笑うのだ。
 ハイハイ、と笑いながらシェゾの苦い顔を見やってまた微笑む。
 「お前なんか嫌いだっつってんだろ」
 「そうかい、残念だよ」
 楽しげな、そのセリフこそ嘘だろう。


 「…お前なんか──」



 ─シェゾは、自分ばかりがラグナスに惚れ込んでいるようで嫌だった。
 どこか飄々とシェゾをからかうようなラグナスの「愛情表現」とやらは、本当にただからかっているようにしか思えないのだ。
 悪戯に愛を囁いては慌てるシェゾの反応を楽しんで悦に入るような。

 「…」
 「?シェゾ?」
 ─嫌いだ、というだけならラグナスは笑ってその裏にある拗ねた愛情を感じ取ってしまう。
 そういうのに関しては、腹が立つほどにこの男は敏感だ。
 なので、今度は趣向を変えてみる。
 ただ無言でラグナスへの拒絶を示し、顔すらあわせない。
 もちろんその表情はいつも以上の顰め面だ。
 「…シェゾ、怒ったのか?」
 「…」
 微かにラグナスの声が焦った。
 ここまで完全にラグナスを拒絶したのは、触れ合うようになってからは多分初めてだ。
 「─シェゾ?」
 振り向かない相手に、ラグナスはその顔を覗こうと動くが、シェゾは更にひときわ顔を顰めて彼の視線からそれを逸らしてしまう。
 「…ご、ごめん、シェゾ。俺が悪かったんだ」
 だからこっちを向いて欲しいと、ラグナスが縋る声を上げる。
 ─どうやら彼は、拒絶には弱いらしい。
 例えそれが上辺だけで、内心シェゾが面白がっていたとしても、だ。

 「…大嫌いだ」
 また呟いて。
 横目で見やればラグナスはこれ以上にないくらい目を見開いて、呆気としていた。
 本気で嫌われたかと。
 そんな呆然とした内心が透けて見えるようだ。
 「…」
 「…ご…めん」
 声のトーンが幾ばか落ち、肩すらも心なしかしょんぼりとなるラグナスに、シェゾの口の端がひきつる。
 いつも自分より上手にいる男が、翻弄されるさまが見れて楽しくてしょうがないのと同時に─
 自分に嫌われた、という理由でここまでの落胆振りを見せる彼の様子が嬉しくてしょうがないような、恥ずかしい気分がこみ上げてきたのだ。

 「……嘘だ」
 「?」
 少し間を置いてやってから、すっかりしょげた犬のように黙り込んでいたラグナスの顔を覗いて、悪戯っぽく笑ってやる。
 「冗談だよ。何、そこまで本気で落ち込んでんだ」
 「ぇ」
 「…」
 まだ曖昧な反応のラグナスに、口の端を吊り上げる。

 「…そんなに俺に嫌われるのが嫌かよ」

 初めて見た、はっきりとしたラグナスのシェゾへの好意。
 シェゾはそれが楽しくてしょうがないというような笑顔を向けてやった。
 すると、ラグナスの呆然とした顔が徐々にはっきりとし、苦笑のような笑顔を浮かべた。

 「あぁ…、今回は完敗だよ…」
 「…つーか」
 「ん?」
 シェゾは、笑い収まらぬ顔のまま続ける。
 「あんま人のことからかってると…、本気でお前のこと嫌うからな。
  俺はからかわれるのが大嫌いなんだよ」
 ニィ、と浮かべた意地悪い笑みはラグナスをまた苦笑させた。
 からかってるつもりはなかったんだと言うその口を視線で閉じさせてからシェゾは腕を組む。
 「…で、今俺に言うことがあるんじゃないのか?」
 「え?何のことかな」
 「……あばよ」
 とぼけた返答に、シェゾが不機嫌顔になりラグナスに背を向ける。
 ラグナスは慌ててシェゾの肩を掴んで止めた。
 「嘘、冗談だから待ってくれ。ちゃんと言うって」
 「ちゃぁんと言えよ」
 ジロリ、と睨めば鳶色の瞳はモチロンだと頷いた。
 「─シェゾ、俺は─
  君だけが、大好きだよ」
 「本気で言ってるか?」
 「本気だよ」
 「じゃあ、もっとあんだろ」
 「…えっと、何の羞恥プレイかな」
 「殴るぞお前」
 散々、今まで人をからかった分を返すまで言わせるつもりのシェゾに、ラグナスは溜息を吐いた。
 溜息を吐いた後、延延と、シェゾからの許しが出るまで何度もそれを言わされる。

 シェゾの反応を楽しむものでない、純粋に、彼を好きだという想いを。



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管理人より>>携帯16300(1300)斬番リクエスト。
 ラグシェ甘と言うことでこんなものになりました。
 ラグシェというよりは、半ばシェラグっぽい気もしますが、ラグシェなんですよ〜

 UP=2006/05/12

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