うだる暑さの中、何をするわけでもなく部屋の中で仰向けに転がっていた。
部屋の明かりは灯していないのに、そこは十分すぎるほど明るくまぶしい。
「…暑…」
「黙れ」
耐え切れず、ラグナスが呟けばシェゾが間髪いれずに遮る。
その言葉を聞くのも嫌というほど、この日は暑かった。
ふと、ラグナスが目を閉じながら呟いた。
「…あ、死にたい」
「……は?」
暑さで可笑しくなったかと、シェゾがいぶかしみ身体を起こす。
フローリングの床の、背中がついていた面がじっとりと湿っている。
面倒くさそうに、それを傍にあるタオルで拭いた。
「いや、なんか。急に死にたい。どうしよう」
「死ね」
「…」
「おい、黙るくらいなら言うな」
「うん」
大方、ラグナスも深く考えて発言したのではないのだろう。
シェゾの不機嫌な一喝に、そのまま黙り込む。
「うーん、何でだろうな。たまにあるんだ」
「何が」
「死にたいこと?」
ラグナスは相変らず床に仰向けになったまま、ぼんやりと言った。
「鬱かな?」
「このクソ暑い中、その上じめったいものまで持ち込むんじゃねえよ」
シェゾの長い足が、ラグナスを軽く蹴飛ばす。
背中はびしょびしょとまではいかないが、汗が伝っていて不快指数が高い。
唯一涼しかった床も、今では体温が移ってしまって余計に暑くなっていた。
「シェゾー」
「あん?」
「もしさー」
「あー」
「俺が、頼んだら殺したりとかする?」
「誰を」
「俺?」
「疑問かよ」
セミの鳴き声を遠くで聞きつつ、だらだらとそんなやり取りを交わしラグナスも身体を起こした。
何となく背中合わせになると、ラグナスがくすくすと微笑う。
「な、殺したりするか?」
試すつもりはないのだろう。
きっと、暑さで脳みそが茹っているんだ。
シェゾは面倒くさそうにラグナスの背中に寄りかかってやった。
じっとり、互いの体温が混ざり合ってますます熱が上がる。
「殺したって死にそうにない癖してよく言うぜ」
「それは、君も一緒」
ラグナスも、負けじとシェゾの背中へ寄りかかるように体勢を変えた。
「本当に死にたいなら殺してやる」
白い天井をボンヤリ眺め、続ける。
「後腐れがないようにばっさりな」
「それは、嬉しいね」
「キャンセルは受け付けないからな」
「ん?」
「やっぱり死にたくないとかいっても手遅れってことだ」
「…うわ」
「振り下ろした剣は急にとまらねえんだよ」
「え、斬首?」
「介錯でもいいぞ」
物騒な会話に笑いがこみ上げ、二人は背中合わせのまま暫し笑った。
起き上がっている方が、風が当たって心地がいい。
汗は随分引いたが、触れ合った背中だけはしっとりと濡れていた。
ひとしきり笑い、無言になった後─
シェゾは口を笑みにゆがめたまま言う。
「だから、ホントに死にたいなら言え。
俺がこの手で、あの世に送ってやるよ」
ラグナスが、また笑った。
声を張って、楽しそうに笑った。
珍しい笑い方だったので、シェゾはラグナスの黒い髪を、一束背中越しに引っ張ってやった。
すると、その向こうから「うん、解った」と頷く気配がしたので、手を放す。
「暑いね」
「ああ」
「背中」
「まあ、いいだろ」
「何、こうしてるの楽しい?」
「それはお前だろ」
「うん。楽しいよ」
「暑いな」
「うん」
また、会話がもどる。
内容のない話だが、喋っていた方が気が楽だった。
この日も、日が落ちるまで暑かった。
**END**
管理人より>
暑苦し…('A`;)
PCUP=2006/08/14
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